EV車体のデザインに生かす、日産のAIの使い方
デザイン初期に即時検証
自動車は走行時にさまざまな抵抗を受ける。そのうちの約2割を占めるのが「空気抵抗」だ。内燃機関はもちろん、電気自動車(EV)においても、空気抵抗の低減は重要だ。日産自動車は、コンピューターシミュレーションで数日かけて計算する空気抵抗の値を、約1分で予測できる人工知能(AI)モデルを開発し、活用を始めている。
空気抵抗の大きさは車体の形状と密接な関係にある。そのため、車体のデザインを検討する際には、デザイン性と空気抵抗の低減を高いレベルで両立する必要がある。ただ、空気抵抗を計算するシミュレーションは、高性能なコンピューターを使っても数日かかるため、デザイン検討の業務における課題となっていた。
そこで、日産の空力CAEエンジニアである赤坂啓氏は「計算精度と時間短縮を両立するのは従来技術の延長上では難しい」と判断。AIを活用することを検討した。
赤坂氏から依頼を受けたのは、日産のモビリティ&AI研究所のデータサイエンティストである陳放歌氏。陳氏はAI深層学習の手法を使って、シミュレーションの計算値を高精度に予測する方法を検討。シミュレーションの入力値である車の形状データと、その出力値に当たる空気抵抗データを約1200セット準備してAIに学習させた。さらに、「学習データへの依存度を減らして予測精度を上げるため、流体力学の物理方程式も学習させた」(陳氏)。
その結果、シミュレーションによる空気抵抗の値を約1分で高精度に予測できるAIモデルを実現。デザイナーやエンジニアでも簡単に使えるソフトウエアにAIモデルを組み込んだ。AIモデルは22年に本格運用を始めており、現在は車両開発の初期の検証作業でデザインの方向性を考えるのに利用している。
学習データが少ない車体形状の予測精度を補うため、シミュレーションによる確認と組み合わせながら運用している。AIモデルの実用化によって、デザイン検討の会議ではデザインを変更した後の空力性能をその場で予測して、議論できるようになったという。
今後、さらに予測精度を向上し、適用範囲を広げるには、さらに多くのデータの学習が必要になる。そのため、低コストのオープンソースソフトを使って学習用のシミュレーションデータを大量に作る取り組みも始めた。AIモデルを学習させて予測精度を上げながら、新車開発に積極的に導入していく考えだ。(編集委員・錦織承平)
【関連記事】 日産が新しいクルマ作りで必ず頼りにする機械メーカー