トヨタは15%増、自動車・電機・重工…業界別の設備投資動向を点検する
コロナ禍からの経済回復が鮮明になる中、国内企業は2024年3月期に高水準の設備投資を計画する。脱炭素関連などの次世代技術や、サプライチェーン(供給網)の強靭(きょうじん)化を重点テーマに据え投資を厚くする。一方、携帯通信3社の合計の投資額が前期比割れを見込むなど濃淡はある。業界ごとに設備投資動向を点検する。
【自動車】電動化シフト、6社2ケタ増
自動車業界は電動化や先行投資、新車立ち上げなどで設備投資が増える。乗用車メーカー7社(トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、三菱自動車、スズキ、マツダ、SUBARU〈スバル〉)は、24年3月期に前期比14・9%増の計3兆4650億円の設備投資を計画。23年3月期の設備投資実績が同23・2%増だったのに比べると増加率は低下するものの、ホンダを除く6社が同2桁%以上の増額を見込む。
トヨタの24年3月期の設備投資計画は同15・8%増の1兆8600億円。電池を含む電気自動車(EV)関連の投資や次世代技術の実証都市「ウーブン・シティ」をはじめとする先行投資などを含む。「従来よりCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に関わる先行投資の比率は増えている」(同社)。
ホンダは同19・0%減の4000億円の設備投資を計画する。前期に北米などで新機種の投資が多かった反動もあり、前期実績より減る見込みだが、電動化関連の投資は増やす。マツダは同48・8%増の1400億円を計画。上級志向の顧客をターゲットとした「ラージ商品群」の強化や老朽化設備の更新などで投資が増える。日産の計画は22年3月期、23年同期の当初計画と同水準の4400億円。新車立ち上げの準備や設備の更新が中心となる見通しだ。
【自動車部品】生産性を向上、省力化を推進
原材料やエネルギー高が続くなか、自動車部品メーカー各社は生産性向上や省力化に投資を振り向け、収益力の改善を狙う。
曙ブレーキ工業の24年3月期の設備投資額は前期比1・3%増の76億円の計画。新規受注対応や老朽化、工場移転を中心に、生産性向上や品質改善、環境対応を推進する。23年3月期は、当初は63億円の計画だったが部材不足やサプライチェーン(供給網)の混乱のため早めに準備し、実績は75億円となった。日本ピストンリングは同40・6%増の43億円を見込む。自動化・省力化など合理化に向けた投資や、将来を見据えた研究開発投資のほか「脱炭素に向けた環境投資にも注力する」(高橋輝夫社長)とする。
アーレスティは新規受注品向け投資の増加もあり同2・6倍の182億円(金型除く)を予定する。うち新規製品や能力増強に128億円を投資。社内設備流用など効率的な投資を意識する。
【総合電機】5社で20%増2.2兆円
電機大手5社の24年3月期の設備投資額は、前期比約13%増の2兆2860億円となる見込みだ。
ソニーグループは前期比7・4%減の7500億円を見込む。主にイメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野や音楽分野などによる。ただ、投資の中心は画像センサーなどの生産設備となる。
また日立製作所は同約11%減の3100億円を見込むものの、日立建機と日立金属(現プロテリアル)が連結から外れたことなどが要因。その影響を除けば前期と同水準だという。脱炭素関連の投資などが伸びる。
一方、パナソニックホールディングスは同約2・3倍の7000億円と大幅な増加を見込む。このうち約半分となる3810億円はエナジーセグメントで、北米における車載電池の新工場建設への投資が増大する。
三菱電機は同約15%減となる3150億円を想定。工場自動化(FA)機器や自動車機器の増産のほか、昇降機や空調機の増産、パワーデバイス関連の増産などが中心になる。
東芝は同約10%増の2110億円を見込んでいる。パワーデバイス関連や東芝独自のリチウムイオン電池「SCiB」などの設備投資に注力する。
【携帯通信】5G網の拡大一巡
携帯通信3社の24年3月期の設備投資額は、前期比3・6%減の1兆6780億円の見通し。主力となるのは、引き続き第5世代通信(5G)ネットワーク拡大に向けた投資。だが、基地局の建設などを請け負う通信建設大手幹部からは、5G投資は一巡して「縮退傾向にある」との声もあり、ピークアウトしている可能性はある。
ソフトバンクの24年3月期の個人向け通信事業・法人事業の設備投資額は、23年3月期比19・0%減の3300億円になる見通し。23年3月期までに、5Gの面展開はおおむね完了した。24年3月期―26年3月期は「トラフィック(通信量)の需要に応じたスポットの投資、(5G専用の設備を使ってネットワークを構築する)5Gスタンドアローン(SA)化など機能の高度化に投資していく」(宮川潤一社長)方針。
NTTドコモ、KDDIの24年3月期の設備投資額はそれぞれ同3・1%増の7280億円、同1・2%減の6200億円の計画。
【工作機械・ロボット】増産体制構築急ぐ
工作機械やロボットではサプライチェーンの強靱化や増産に向けた投資が相次ぐ。アマダは26年3月期までの3年間で供給体制の強化に200億―300億円を投じる。板金加工機や加工機に素材を供給する自動化装置の生産能力を欧州や米国などで増強する。日本からの輸入比率を順次引き下げるなどして、安定した生産基盤の構築を進める。アイダエンジニアリングは24年3月期に前期比7・1%増の30億円の設備投資を計画。前期から続く高速プレス機の増産体制構築に向けた投資が一部残るほか、「加工機のアップグレード、オーバーホール、業務システムの改善などへの投資を積み上げていく」(同社幹部)とした。
安川電機は24年2月期に前期比37・6%増の380億円の設備投資を見込む。福岡県行橋市にインバーター向け部品の新工場を設けるなど、部品の内製化率を高めて供給網を強化する。26年2月期までの3年間では累計1500億円の設備投資を計画。その一環として約200億円を投じ、北九州市八幡西区の本社でロボットの新工場を建設する。
【重工業】脱炭素に積極投資
重工業大手3社は成長分野や脱炭素に積極投資する。三菱重工業は24年3月期(国際会計基準)の設備投資額を前期比19・4%増の1800億円と見込む。会計基準変更で単純比較できないが、17年3月期の2044億円以来の高水準だ。業績をけん引する発電機器などのエナジー部門では、主力のガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)に積極投資する。
IHIは同37・5%増の840億円を設備投資に充てる予定。4年ぶりの高水準。このうち約半分は26年3月期までの新中期経営計画の成長事業の航空機エンジン・ロケット、育成事業のアンモニアなどのクリーンエネルギーに投資する。
川崎重工業は設備投資額を同29・8%増の1250億円と見込む。会計基準変更で単純比較できないが過去最高。稼ぎ頭の2輪・4輪車のパワースポーツ&エンジン部門、堅調な精密機械・ロボット部門が中心。民間航空機の増産に向けても投資する。
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