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中韓に引き離されたが…ニッポン造船の起死回生へ「ゼロエミ船」に好機あり

中韓に引き離されたが…ニッポン造船の起死回生へ「ゼロエミ船」に好機あり

常石造船、商船三井、三井E&S造船が開発を進めるアンモニアを燃料とする外航液化ガス輸送船(完成予想図)

カーボンニュートラル温室効果ガス〈GHG〉排出量実質ゼロ)社会の実現に向け、国際海運の取り組みが一歩前進した。国際海事機関(IMO)は「2050年ごろまでのGHG排出ゼロ」を新たな目標に採択した。18年に設けた「50年までに08年比で50%削減、今世紀中早期の排出ゼロ」からの前倒しだ。この新目標策定には日本が大きく貢献しており、同時に海洋国家復権への期待も高まる。(編集委員・板崎英士)

GHG排出削減に向け検討中の各国・機関から出された提案

3―7日にロンドンで開かれたIMO第80回海洋環境保護委員会(MEPC80)で、「2023IMO・GHG削減戦略」として全会一致で採択した。ただ政府関係者によると、中国やブラジルその他の開発途上国が達成時期と中間目標の明記に反対、深夜に及ぶ議論の末に“50年ごろ”の文言で決着したという。中間目標は日米欧の各提案で数値が大きく異なったが、中間的な案にさらに幅を持たせることで合意した。

IMOは21年11月から目標の見直しに着手した。日本政府は1カ月前の21年10月に「50年のGHG排出ネットゼロ」目標を公表、日本船主協会も同じ目標を打ち出した。そして11月、わが国はIMOに対し米英などと共同でこの目標を世界共通目標にするよう提案した。今回、大筋で日本の目標に沿う形で採択された。

新目標策定はわが国にとって三つの意味を持つ。一つは純粋な脱炭素社会の前倒し、二つ目は今後の制度設計やルールづくりで主導権を握れる可能性が高まったこと、三つ目は水素やアンモニアを燃料とするゼロエミッション船の開発加速による海事産業全体の発展だ。斉藤鉄夫国土交通相は「国際ルールの策定や技術開発により、国際的取り組みを強力にリードしたい」と意気込みを語る。船主協の明珍幸一会長(川崎汽船社長)も「日本政府のリードを期待し、海運業界としてもバックアップする」とコメントした。

今後、IMOは実効性を高めるための議論に移る。各国からの提案の中で経済的手法が日本案を含めた3案、規制的手法が欧州連合(EU)と中国の2案に絞られた。日本の提案は化石燃料船に課金し、ゼロエミッション船に還付する課金還付(フィーベイト)制度、島しょ国からは二酸化炭素(CO2)への単純課金案が出ている。規制的手法は燃料のエネルギー消費当たりのGHG排出量を規制する提案だが、EU案はライフサイクルでの排出を対象とするのに対し、中国案は船上のみと論点が分かれる部分だ。

一方、わが国はゼロエミ船の開発では、グリーンイノベーション(GI)基金や日本財団などのプロジェクトを通じ、水素・アンモニア船をはじめ船上でのCO2回収などさまざまな研究開発が進む。今回の新目標では30年時点でのゼロエミ船導入を日本が提案した5%より多い5―10%とされ、官民挙げての開発に拍車がかかることが期待される。日本造船工業会の金花芳則会長(川崎重工業会長)は「50年までにゼロエミ船への代替が強制され、新造船建造需要を大きく伸ばす。魅力ある産業として必ず復活する」と言う。中国、韓国に引き離された造船産業だが、オールジャパン体制を組んでゼロエミ船で復活する起死回生のチャンスが到来した。

日刊工業新聞 2023年月7月18日

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