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三菱重工・川重・IHI…重工大手が注力「CO2回収ビジネス」、それぞれの戦略

三菱重工・川重・IHI…重工大手が注力「CO2回収ビジネス」、それぞれの戦略

三菱重工が米国の石炭火力発電所に設置したCO2回収プラント(同社提供)

重工業大手がカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)の手段として二酸化炭素(CO2)回収設備事業に注力している。顧客のプラントなどからCO2を回収して実質的な排出量を減らし、脱炭素につなげる。各社は回収先の多様化や、大気からの直接回収技術「DAC」の開発に取り組む。さらに回収後の産業利用、輸送や地下貯留までのCO2サプライチェーン(供給網)の構築を目指して動く。(戸村智幸)

三菱重工/プラント拡販、伊社と協業

「米国ではインフレ抑制法(IRA)でCO2回収にインセンティブが付き、ビジネスチャンスが大きい。かなり有望な技術と認められている」―。三菱重工業の加口仁副社長はCO2回収に期待をかける。2022年8月のIRA成立でCO2回収関連の設備投資を実行した場合、税控除が適用されるようになり、三菱重工にも追い風が吹く。

三菱重工はプラントの設計・調達・建設(EPC)を手がけるノウハウを生かし、顧客の肥料プラントや石炭火力発電所にCO2回収プラントを併設してきた。関西電力と共同開発のアミン吸収液を活用する方式で、商用での排ガスからのCO2回収量の世界シェアは70%を超える。

脱炭素の潮流に乗り、22年度(12月末時点)の事業化調査(FS)の受注は年換算で約5300万トンと21年度からほぼ倍増した。そのうち米国は約3000万トンを占めた。

協業戦略もとる。イタリアのエンジニアリング大手サイペムと4月、CO2回収技術のライセンス供与で協業した。サイペムは石油・ガスプラントを手がけ、欧州・中東に強い。同社が三菱重工のライセンスを活用し、同地域でCO2回収プラントを拡販する。同社以外へのライセンス供与も目指す。

EPCを毎回遂行するのではなく、設計を標準化した既製品の小型装置を販売・据え付ける手法も進める。通常はEPCを、小規模案件は装置を提案する戦略だ。1日のCO2回収量0・3―200トンの5モデルを用意し、EPCよりも手軽に導入できる。洲崎誠エンジニアリングセグメント長代理は「既製品を適用するのでコストが安い」と利点を強調する。将来は遠隔監視による運転支援も提供予定で、サービスビジネスを育てる。

川重/固体材活用、大気から1日5kg

川重は大気からのCO2回収の事業化を目指す(イメージ)

川崎重工業はDACを事業化しようとしている。吸収液ではなく固体のアミン吸収材を活用する技術が特徴だ。吸収液の半分の60度Cの蒸気で回収できるため、省エネルギーだ。

石炭火力発電所やゴミ処理場からのCO2回収実証に取り組みつつ、DACを開発する両面戦略だ。大気から1日5キログラムのCO2を回収する実証を完了し、ほぼ100%回収できた。25年には1日の回収量0・5―1トンの装置を完成させることを目指す。

川重は脱炭素では水素を事業化しようとしており、その次にCO2の回収・利用・貯留(CCUS)を事業化するイメージだ。橋本康彦社長は「うまくやれば水素と同じぐらいの事業規模になれる」と期待する。水素事業は50年に売上高2兆円を目指しており、CCUSにも同様の可能性があるとみている。

I H I/設計標準化、メタン製造装置提案

IHIが発売したメタネーションの小型装置。設計を標準化した

回収したCO2は産業への利用が期待されており、中でもCO2と水素からメタンを製造するメタネーションが有力視されている。IHIはアミン吸収液方式の実証を完了するなどCO2回収技術を整えつつ、メタネーションを顧客に提案する戦略を取る。

個別にメタネーション装置を製作してきたが、設計を標準化した小型装置を22年10月に発売し、1月には初受注を東邦ガスから果たした。メタンは都市ガスの主成分のためガス業界はメタネーションへの関心が高く、売り込みたい業界だ。

大型装置もあり、22年12月にはJFEスチールから受注した。24年度に同社の東日本製鉄所千葉地区(千葉市中央区)に納入し、試験高炉の排ガスからCO2を回収してメタンを製造し、高炉の還元材に使用する脱炭素実証に活用される。

製造能力は毎時500ノルマル立方メートルで、世界最大になる。CO2回収装置も受注しており、これらの一体受注は国内初だ。資源・エネルギー・環境事業領域カーボンソリューションSBU営業部国内営業グループの小林研一郎部長は「モデルケースになる」と自信を示す。

輸送・貯留―課題解決、提携を推進

三菱造船は日本シップヤードと大型の液化CO2輸送船を共同開発する(イメージ)

CO2回収後の処置として産業利用だけでなく、地下貯留が有力視されるが、輸送手段の確立、貯留先確保が課題だ。単独ではなく協業で解決しようという動きが出ている。

日本でCO2を回収してアジアに貯留する場合、船舶で輸送することになる。三菱重工は子会社三菱造船(横浜市西区)がCO2を液化して搭載する小型の実証船を開発中で、23年度後半に完成予定だ。事業化には大型船の共同開発が必要なため、日本シップヤード(NSY、東京都千代田区)と5月に検討作業を始めた。

NSYは造船最大手の今治造船(愛媛県今治市)と大手のジャパンマリンユナイテッド(横浜市西区)の商船営業・設計の統合会社だ。海運会社から受注後、今治造船の造船所でタンク容積数万立方メートルの大型船を建造する見込みで、27年以降の竣工を目指す。三菱重工側の建造能力が限られるため、NSYと協業する。

地下貯留では、川重がDACで回収したCO2を国内で地下貯留する実証の実施に向け、他社とFSを実施中だ。エネルギーソリューション&マリンカンパニーCCUS事業推進室の安原克樹室長は「埋める環境を整えることが必要」と説く。

三菱重工は貯留先確保に向け、22年11月に米石油大手エクソンモービルと提携した。同社はCO2の輸送・貯留で知見がある。加口副社長は「オイルメジャーは貯留の適地を持っており、貯留に市場性を見いだしている」と狙いを説く。具体的な協業に向け、定期的に議論している。米国やアジアで大規模な貯留案件を両社で実現できれば、大きな事業になる。

13日には経済産業省が、CO2の回収・貯留(CCS)のモデル事業を七つ選定した。30年までの貯留開始と大規模化に向けてモデル事業を支援する。西村康稔経産相は「化石燃料を使いながらカーボンニュートラルを目指す上でCCSは重要な位置付けだ。(事業を円滑に進めるための)法整備の検討も加速したい」と市場拡大を後押しする姿勢を示した。

重工各社はCO2回収では技術や実績があるが、メタネーションなどの産業利用や地下貯留までのサプライチェーンに広げる動きは途上だ。協業を深掘りし、長期的な視野で具体化できるかが問われる。


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日刊工業新聞 2023年06月15日

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