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「水素供給装置」に挑む新明和工業、見いだす勝機

「水素供給装置」に挑む新明和工業、見いだす勝機

新明和工業が取り組む脱水素装置(フレイン・エナジー提供)

新明和工業が輸送機器の水素供給装置事業に挑む。水素を液体化合物に変え、蓄えて運べる装置として2025年度に量産開始を目指す。同社は特装車や駐車設備など機械製品を得意とするが、水素では化学の知見も必要になる。そこで水素の触媒反応技術を握るベンチャー企業と組み、水素サプライチェーン(供給網)の一翼を狙う。燃料電池車(FCV)やトラックへの水素供給などニッチ(すき間)の需要をつかめるかがカギになる。(大阪・田井茂)

「『水素供給装置をゴミ収集車に使ってほしい』と提案を聞いたのが始まりだった」。新明和工業の真部孝之新事業戦略本部新事業開発部部長補佐は、水素事業に挑戦を決めたきっかけをこう明かす。提案相手は、水素の化学的な貯蔵・運搬技術を手がけるフレイン・エナジー(HE、札幌市東区)の小池田章社長。ただ新明和が手がけるのはトラックやゴミ収集車の架装で、FCVそのものではない。このため新明和の特装車部門は関心を示さなかったが、真部部長補佐は反応した。

新事業戦略本部は2031年3月期の売上高目標4000億円(23年3月期は2251億円)の具体案を策定する役目がある。国も水素サプライチェーンの形成を打ち出している。社会インフラ事業が主力の新明和と一致する新たな領域と考え、水素供給装置をHEと共同開発する契約締結に踏み切った。

HEは水素を常温・常圧で液体のメチルシクロヘキサン(MCH)に合成・変換し、分解して水素を取り出す技術を握る。MCHは水素を500分の1の容積で貯められる。タンクローリーなど既存の手段で運べるのも有利だ。新明和は主に量産技術を分担する。

しかし水素供給装置は中核が触媒の化学反応。MCHから水素を取り出すには350度C以上必要で、省エネルギーで効率よく分解する技術ハードルが高い。価格も、燃料電池(FC)に必要な量の水素供給能力であれば、FCより安くする必要があると見る。新明和は真空装置なども手がけるが、HEの化学的技術を実用的装置として量産できるか、従来にない挑戦になる。

「トラックは電気自動車(EV)だと走行距離が短いので、一番適するのはFCVになる」。真部部長補佐は開発する水素供給装置が狙う主な需要先を、FCVトラックの水素充填拠点と想定する。25年に実用化し、31年3月期には事業規模40億円と意欲的な目標を打ち出す。それでも同期の売上高目標全体では1%に過ぎない。

MCHでは千代田化工建設などの大手が大規模な事業化を図っている。MCHは水素を液化や高圧化するのに比べ、取り扱いなどで優位性が高い。将来は燃焼による水素発電にも利用が期待される。だが新明和が狙うのはこうした大規模な市場でない。ニッチ市場に絞れば、「大手とすみ分けできる」(真部部長補佐)と水素ビジネスに勝機を見いだそうとする。

日刊工業新聞 2023年月7月18日

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