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生活の消費エネルギーを正味ゼロにした集合住宅「ZEH―M」、メリットはどこにある?

生活の消費エネルギーを正味ゼロにした集合住宅「ZEH―M」、メリットはどこにある?

「シャーメゾンZEH」。住戸ごとにZEHとするため、入居者に利点が多い。

大手住宅メーカーが省エネルギー化と創エネルギー設備の設置により生活の消費エネルギーを正味ゼロに近づけた集合住宅「ZEH―M(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス―マンション)」の提案を強化している。高額な初期コストや建築主に便益が少ないことを理由に、一戸建て注文住宅の2021年度のZEH普及率が26・7%に対し、集合住宅は7・4%にとどまる。国がZEHを推進しており商機があるとみて、各社は建築主にとってのメリットを明確化しZEH―M物件の受注拡大に取り組む。(田中薫)

国は30年度以降の新築住宅についてZEH水準の省エネ性能の確保を目指すとしている。ZEHは高断熱仕様による快適性や光熱費の削減効果、余剰電力の売電や蓄電・自家使用による経済性で居住者にメリットがある。しかし賃貸住宅の場合、建築主にはコストをかける直接的なメリットが少なく、浸透が進んでいない。

旭化成ホームズはZEH―M対応の賃貸住宅の屋根を建築主から30年間賃借し、太陽光発電設備と蓄電池を設置した上で所有・管理を行う「エコレジグリッド」システムを展開する。装置の初期投資や維持管理、撤去費用は同社が負担。建築主は住棟の省エネ化の費用負担だけで資産価値を向上させられる。

同社はグループ会社で電力売買事業を展開しており、賃借した屋根で発電した電力は入居者に販売する。電気代は大手電力会社に比べ15―20%程度安く、入居者にも得がある。搭載はパネルの積載や発電効率から100坪以上の建造物に限られるが、「100坪以上の賃貸市場は大きい。シェアを伸ばす余地がある」(市川靖道営業推進部長)と捉えている。

一方、積水ハウスは住棟全体ではなく住戸単位でZEH認定を受ける賃貸住宅「シャーメゾンZEH」を推進する。集合住宅では、3室並ぶ場合には中央の住戸の断熱性が最も高いというように、住戸ごとに性能が異なる場合がある。また発電した再生可能エネは各住戸に接続され、入居者が売電収入を得られる。住棟ZEHに比べて入居者にメリットが分かりやすく、建築主は家賃を上げやすい。

各住戸にパワーコンディショナーの設置が必要となり初期投資はかかるが、「資産価値を長く維持でき、入居者もZEHの利点を享受できる。それを分かりやすく伝えられるかがポイント」(野口悟志温暖化防止推進室室長)という。22年度に受注した集合住宅を戸別で見ると、ZEH比率は65%。入居者に賃貸物件でZEHを体感してもらうことで、一戸建て住宅購入時にZEHを選んでもらう波及効果も見込んでいる。

このほか、大和ハウス工業は22年にZEH―Mを基本とした賃貸集合住宅を投入。住友林業も同年度以降供給する集合住宅に関し、標準でZEH―Mを推奨している。

国土交通省は賃貸住宅の情報サイトなどで物件の目安光熱費を表示することを検討している。その中でZEH―Mは大きな強みとなる。大手住宅メーカーは集合住宅においてもZEHを普及させるべく、各社は建築主へ積極的な価値訴求に取り組む。

日刊工業新聞 2023年06月26日

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