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誕生50年…システムキッチンはここまで進化した

誕生50年…システムキッチンはここまで進化した

クリナップの「セントロ」はセラミック製のテーブルが一体になっている

日本でシステムキッチンが誕生してから2023年で50年を迎える。シンクとコンロ、キャビネットが一つの天板でつながっているキッチンを指し、生活様式の変化に伴って進化し続けてきた。近年は在宅時間が増えたことで、室内装飾と調和する高い意匠性や、家族間のコミュニケーションを誘発させる機能性が求められている。キッチンは住宅設備の中でも購入者のこだわりが強く、キッチンメーカー各社はいかに時代のニーズに合わせた商品を投入できるかでしのぎを削る。(田中薫)

クリナップが日本で初めてシステムキッチンを開発した1973年当時は、流し台やコンロなどが分離したセクショナルキッチンが一般的だった。同社は83年に一般住宅でも取り入れやすいように、施工を簡易にして価格を抑えた「クリンレディ」を発売。「買えちゃうシステムキッチン」としてシステムキッチンの普及に貢献した。

キッチンは暮らしの変化と共に進化してきた。「男子厨房(ちゅうぼう)に入らず」と言われ、専業主婦の作業の場から、共働き世帯の増加に伴って家族間でコミュニケーションを取る場所へと役割が変化した。システムキッチンの登場によってダクトや排水など設計上の制約も弱まり、住宅の北側に配置されることの多かった台所は、より家族に近い住宅の中心部へと場所を移した。近年では在宅時間の増加や会員制交流サイト(SNS)で個人の暮らしを発信したいというニーズが高まり、意匠性の高さが重視されている。

クリナップは6月に旗艦モデルの高価格帯システムキッチン「セントロ」を刷新する。セラミック製で耐久性が高いダイニングテーブルとつながった形状で、通常の食卓としてだけでなく、生け花など水も使用できる丈夫な作業台としても提案する。また、2022年に刷新した中価格帯の「ステディア」に搭載した低い壁のデュアルトップ対面を採用した。名前の通り住宅の“中心”にありながら、料理中の手元や雑然とした様子が見えにくく、清掃が行き届いていなければいけないという心理的な負担を減らす。

天板はセラミック、ステンレス、人工大理石を用意し、それぞれに合わせたキャビネット扉を展開する。デュアルトップ対面やテーブル部分は造作ではなく一体構造となっているため全体の意匠を統一でき、居室の統一感を損ねない。

TOTOは旗艦システムキッチン「ザ・クラッソ」の天板デザインを拡充した。キッチン業界ではステンレスや人工大理石などが主流。同社独自の「クリスタルカウンター」は透明なエポキシ樹脂を使用した2層構造の天板で、光の当たり方によって影の落ち方が変わり、意匠性が高い。大理石調と水面(みなも)を模した柄を追加したことで、天板を主役とする特徴的なキッチンに仕上げた。

同社では水栓金具やトイレ、浴室など、他の水回り領域の製品も自社グループで開発・製造している。自動水栓や次亜塩素酸水「きれい除菌水」などの機能性の高さを強みとしていたが、意匠性の高さも前面に出す。また周辺設備として、壁付けの大容量キャビネット「コンフォートユニット」を投入した。システムキッチンと扉の意匠を合わせられるため、空間に一体感を持たせられる。

TOTOの「ザ・クラッソ」で使用されるカウンターは透明なエポキシ樹脂製で意匠性が高い
LIXILのシステムキッチン「ノクト」と収納棚「カノール」

LIXILは家具のような意匠のシステムキッチン「ノクト」と、収納棚「カノール」を発売した。ノクトの天板は厚さ1センチメートルと薄く、扉部分の意匠も単純。扉は40色、取手は11種類5形状を用意し、どのような居室でもキッチンが室内装飾に馴染めるようにした。カノールは枠に収納パーツや棚板を組み合わせる“見せる”収納で、生活様式の変化に合わせて形状を変えられる。小物や家電を飾るように収納できるため、使用者の個性を表現しやすい。

また、このように選択肢が増えても迷わないよう、購入者向けに「LDKデザインシミュレーター」機能を公開した。同社の展開するキッチンやインテリア、タイルなどの柄や色を自由に選び、一体感のある居室をシミュレーションできる。気に入った組み合わせは保存可能で、ショールームで担当者に伝えれば、自分の求める雰囲気を明確にして円滑に打ち合わせできる。

開発者が描く未来…災害対応、社会の課題に挑戦

今後働き方・暮らし方がさらに多様化し、高齢化も進む中、より多様化したニーズに対応できるキッチンが求められる。クリナップの奥田展也商品推進課長はセントロ発売の狙いとして「ダイニング事業に展開していきたい」と話す。同社は21年にダイニングテーブルと合体できるキッチン「ヒロマ」を発売した。自動調理家電の普及を受け、キッチンは簡素なつくりとした。ヒロマはセントロよりもキッチンという空間を離れ、ダイニングへと場所を移した。守屋雄策コミュニケーション課長は「ヒロマは次のキッチンの形の一つの提案」と意気込む。

同社はさらに、未来のキッチンを考える取り組みとして、災害現場などに運搬できる移動式キッチンの開発にも取り組んでおり「最終的には脱LDK、社会課題に対して貢献できるようなキッチンを目指す」(奥田課長)としている。竹内宏社長は「キッチンと食住空間の新たな可能性を広げ、全く新しいキッチン事業が経営の柱となるように未来を切り開いていく」と展望を語る。

生活様式の変化と共に進化してきたキッチン。コロナ禍を機に急速な変化を遂げた暮らし方、さらにはその先に対応できるよう各社は未来のキッチンを模索する。

日刊工業新聞 2023年05月08日

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