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文科省事業で最高評価…早稲田大学のリカレント事業が領域拡大中

文科省事業で最高評価…早稲田大学のリカレント事業が領域拡大中

石川スクールは県内企業向けに、産業変革の人材育成を掲げている(スマートエスイー提供)

早稲田大学を中心に13大学と企業などが取り組む情報分野のリカレント(学び直し)事業「スマートエスイー」が領域を広げている。IoT(モノのインターネット)/AI(人工知能)のコースに加え、2023年度はデジタル変革(DX)コースを本格開始。年間で計60人の受講で採算が取れる設定や、地域ニーズに対応したスクールの展開で、自律的な運営を確立する。(編集委員・山本佳世子)

スマートエスイーは通信・物理、情報処理、アプリケーション、ビジネスの各領域をつなぐ実践的なリカレントだ。IoT/AIコースは文部科学省の情報技術の人材育成事業「enPiT―Pro」(エンピット・プロ)で実施してきた。講義・演習に加え、卒業研究に相当する修了制作が特徴だ。

受講時間は約6カ月120時間、受講料は一人約60万円で厚生労働省の職業訓練給付制度の対象だ。受講生は個人と、富士通キヤノンなどの企業からの派遣生が半々だ。無料の日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)でも一部を公開。これにより年2万人超の聴講生から、コース受講生へ移行する例が出ているという。

修了制作ではパイオニア社員がドライブレコーダーの画像データから、局地的な天候の情報をAIで判定する技術の試作を実施。個人では、飲食店の回収おしぼりの本数を写真画像から割り出し、客入り判定や新たなサービスにつなげる特許取得を実現している。

一方、22年度に教材を開発して始めたDXコースは受講時間が約4カ月60時間、受講料が約50万円。IoT/AIコースは技術重視で課題解決のビジネスを考えるのに対し、DXコースは経営やビジネスの観点から顧客の価値向上にアプローチする。2コース合わせて年60人の受講で収支がつりあうという。両コースの連動も進める。

石川県の企業向けに、県やコマツの支援で設計した「石川スクール」も高評価だという。「モノづくりの盛んな地域で産業変革に対応できる人材育成を掲げ、通常の講義を基にカスタマイズした」と、スマートエスイー代表を務める鷲崎弘宜早大教授は説明する。

1日程度の経営者向けセミナーや、各3日間程度のIoT、AIのプログラムを用意した。工場IoTや異常検知のデータサイエンス、プログラミングなどの学びを提供。23年度はノーコードツールでのプログラミングなど、講座を増やして実施する。

日刊工業新聞 2023年05月29日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
早大のスマートエスイーは、文科省事業で中間・事後とも、最高位のS評価を唯一、受けている。連携相手は大学も、企業・団体(30以上)もかなり多い。実は同大は「卓越大学院」プログラム(産学連携の博士教育)でも、エネルギー分野で同様の大所帯を率いて、高い事業評価を得ている。大規模な連携は一般に「言うは易し、行うは難し」。他大学を巻き込むのが上手なのは、早大の特色なのかもしれない。

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