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“偏差値序列” 壊す、大学支援フォーラム「PEAKS」の推進力

大学の仕組み、世界水準に

産学官のトップら100人超をメンバーとする「大学支援フォーラム」(PEAKS)。ワーキンググループ(WG)の議論は、世界と伍する研究大学専門調査会への提言などで、政府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)による政策立案に反映させている。前身事業からの人材育成で、参加の副学長らから国立大学長5人も誕生した。PEAKS座長の上山隆大同会議常勤議員に4年弱の活動を振り返ってもらった。

―知る人ぞ知るPEAKSは内閣府の委託事業で、経団連も巻き込んでいます。

「ミッションの一つは『社会が大学の知を使い尽くす』ための知恵を出すこと。もう一つはここでの議論を、CSTIを通じて実際の政策に反映させることだ。第6期科学技術・イノベーション基本計画や大学ファンドなどの設計に、具体的に結び付けてきた」

―大学ごとの姿勢の違いが出ませんか。

「共通するのは、これまでの国立大でよいとは思っていないことだ。特に大学の序列が偏差値で決まってしまう“固定した秩序”を壊したい―との気持ちが強い。世界動向を見据えて大学の仕組みを抜本的に変えよう、という認識だ。そのためデータの情報収集・分析を行う大学インスティテューショナルリサーチ(IR)、産学連携、財務・経営などのWGで活動している」

―大学の経営人材育成というのは、以前になかった発想です。

「2018年まで実施した『大学トップマネジメント研修』が土台だ。運営費交付金が削減される中、自由な研究を可能とする仕組みを自ら考えるため、世界的な大学の経営システムを学ぶ必要があった。国立大の副学長らが2週間滞在し、米カリフォルニア大学サンディエゴ校で話を聞き議論した。現在はイェール大学のプログラムに形を変え続いている」

―当時の“卒業生”は3年間で67人。強い結束力を耳にします。

「メンバーが非常に親しくなり、情報交換したり困った時に連絡しあったり。横の連携がぐっと進んだ。ここから東京農工大学、名古屋大学などの学長、東北大学大阪大学などのプロボスト(筆頭理事)が生まれた」

―日本型大学成長モデルの実証事業を手がけていますね。

「採択1大学当たり数人の経営コーチが入り、多様なモデルの構築を支援している。リカレント教育東京大学、大型寄付金獲得で京都大学、学費依存の脱却に立命館大学などが取り組んでいる」

【略歴】うえやま・たかひろ 87年(昭62)阪大経済学研究科博士課程満期退学、同年大阪学院大専任講師。98年上智大助教授、米スタンフォード大博士課程修了。13年慶大教授。16年から現職。大阪府出身、64歳。

【記者の目/産業界の関与、もっと必要】
 政府の改革方針に対し、PEAKSは大学経営の現場が主体的に考える場となっている。不足は上山座長が挙げるように産業界の関与だ。新卒一括採用の見直し、リスキリング(学び直し)、新産業創出の博士人材活用など、ここへ来ての社会変化の後押しに期待したい。(編集委員・山本佳世子)

日刊工業新聞 2022年12月22日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
PEAKSは前身事業から上山CSTI議員が率いており、研修に参加した副学長クラスが慕い、いわば”上山塾”というような独特の雰囲気があった。ただ、私もメディアへの開催案内を受け、全体会合に出席したことはあったが、記事にはしていなかった。つまり、中身がピンときていなかったのだ。もったいないことだが、同様の大学関係者は多いだろう。今回、私自身もPEAKSメンバー&幹事に入ったことから、記事の発信との相乗効果を意識したい。注目は、日本型大学成長モデルの構築に向けた実証事業だ。「日本型大学成長モデル」という命名はとてもいいと思う。というのは、これまで大学経営・研究力改革の議論で、先進の米国大学が頻繁に引き合いに出され、他メディアもそれを使う中で、「社会の価値観など違いも大きいのに、米国に追いつけ、追い越せなのか?」と違和感を持っていたためだ。さらに今後、立ち上がりそうなリカレントのワーキンググループも注視したい。座長は24日(記事掲載の翌日)に、CSTIのの佐藤康博議員(みずほフィナンシャルグループ特別顧問、日本経済団体連合会副会長)にバトンタッチとなった。それだけに産業界の関与がこれまでよりぐっと強まった、他にない活動を記事で紹介していけるとよいな、と思っている。

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