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三菱ケミカルGが口火、「石油化学産業」再編議論はどこでどう進むか

三菱ケミカルGが口火、「石油化学産業」再編議論はどこでどう進むか

住友化学、丸善石油化学、三井化学は京葉臨海コンビナートでカーボンニュートラルに向け連携する(三井化学市原工場=千葉県市原市)

2023年度は、国内の石油化学産業の再編議論が進む年となりそうだ。約1年前に議論の口火を切った三菱ケミカルグループは、石化の分離・独立に向けて、24年度に他社との石化の共同企業体(JV)設立を目指す。住友化学など3社は、千葉県臨海部でのカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向け連携する検討を開始した。国内石化産業はどう変わるのか。今後の変化を読み解く。(梶原洵子)

今後の国内石化産業を読み解く上で、基準となるのは規模感だ。現在、石化製品の出発点となる基礎化学品「エチレン」の国内生産能力は年616万2000トン。これに対し、経済産業省は「新・素材産業ビジョン」の中で50年のエチレン内需を同400万トンと予想しており、日本化学工業協会(日化協)は生産量を同4050万トンと予想している。

「50年のプラスチック使用量から逆算し、原料のエチレン生産量を現在から25%減らして算出している」(日化協広報)という。

また、エネルギーコストの上昇が進み、輸入資源に頼る日本の化学産業の競争力が下がる懸念もある。

現在、国内には年産40万―70万トン弱の規模のエチレン生産設備(エチレンクラッカー)が12基ある。3基減れば、おおむね25%減って生産量のつじつまは合うが、コトはそう単純ではない。

理由の一つはクラッカー1基当たりの生産規模だ。日本のクラッカーは稼働から50年以上のプラントが多く、海外に比べ小規模で競争力を上げるには限界がある。数を減らすだけでは解決しない。

「50年には(スクラップ&ビルドの上で)エチレン生産で年100万トン規模のコンビナートが4カ所程度に集約されるのではないか」(化学大手幹部)との声もある。

もう一つの理由は、カーボンニュートラル実現への対応だ。現在は化石資源由来の「ナフサ」を原料に使っているが、これを何に切り替えるのか。廃プラスチックかバイオマスか。また、原料を熱分解してエチレンなどを生産する際に使う燃料は、アンモニアか別のものか。欧州で実証実験が進む電気加熱式は日本でも使えるのか。鉄鋼など他産業の工場も集積する「コンビナート」全体で水素エネルギーを使う選択肢もある。決めなければならないことは多い。

次の石化再編では、これらを踏まえてパートナーの企業などと将来像を議論し、コンビナートを作り変えなければならない。

50年に向けた残り時間はそれほど多くない。中間地点の30年までに将来のコンビナート像を固めるには、議論の場となる企業連携の枠組みは2―3年で決まる可能性が高い。

住化など3社、千葉県臨海部で連携検討

先に一歩を踏み出したのは住友化学と丸善石油化学、三井化学だ。3社は2月、千葉県の京葉臨海コンビナート内のカーボンニュートラル実現に向け連携する検討を開始した。バイオマス原料の活用やリサイクル、燃料転換を検討する。

カーボンニュートラルは技術的なハードルが高く、投資額も巨額になる。日化協では50年のカーボンニュートラル実現のため、日本の化学産業では7兆円から10兆円近くもの投資が必要と試算している。住友化学など3社は、連携により重複投資を避け、各社の技術を融合することで、取り組みを加速する。

また、3社は15年に同地域で実施されたエチレンクラッカーの集約で間接的に連携した実績もある。今回の連携でどこまで踏み込むのか注目される。

三菱ケミG、事業分離・独立へ前進

一方、三菱ケミカルグループのジョンマーク・ギルソン社長は、2月に開いた中期経営計画説明会で、21年12月に打ち出した石化・炭素事業の分離・独立の取り組みは「遅れていない」と強調した。水面下でさまざまな企業と話し合いを進めているようだ。23年度にパートナーを決めて24年度にJV化し、25年度には売却または非連結化を目指す。

三菱ケミカルGは21年12月に石化事業の分離・独立の方針を打ち出し、議論の口火を切った(エチレンクラッカー=茨城県神栖市)

同社といえば、スリムで収益力の高い企業に向けて、最近では英国でのアクリル樹脂原料の生産撤退や新型コロナウイルスワクチンの開発中断などを相次いで決断した。石化の分離・独立もこれと無関係ではないが、最大手として国内で石化産業が存続する道筋をつけたいとの思いが強い。「国内で石化産業が存続するためには業界再編が必要だ」(ギルソン社長)と訴える。

東ソー、外部調達で調整

では、石化生産の再編はどこでどう進むのか。カギはエチレンやプロピレンなどの基礎化学品を原料にして生産されるさまざまな製品(誘導品)だ。多くの場合、エチレンメーカーとは異なる企業が誘導品を生産しており、誘導品の生産に影響が出ない方が再編を進めやすい。

同じ地域でエチレンクラッカー2基を統合する場合、パイプラインをつないで誘導品メーカーに原料供給を継続でき、誘導品への影響を抑えられる。クラッカー4基を擁する京葉臨海コンビナートが石化再編で注目されるのはこのためだ。

ただ、複数のクラッカーがある地域は限られ、最終的には誘導品を含めたコンビナート全体の競争力によって淘汰(とうた)・再編が進むと予想される。

現時点で、最も自社のクラッカーを維持しやすいのは東ソーだろう。同社のエチレン消費量は生産量よりも多く、他社からエチレンを購入している。需要が減れば外部調達のエチレンを減らして、自社のクラッカーは高稼働を維持できる。

三井化、生産網を強化

三井化学は、基礎化学品から川下の誘導品まで生産チェーン全体の強化に注力している。価格勝負ではない誘導品が増えれば、コスト面で日本の輸出競争力が低下しても販売を維持しやすく、エチレンクラッカーの高稼働につながる。

また、三井化学の橋本修社長は将来のコンビナートについて「欧州の『ケミカルパーク』のような形も考えられる」と指摘する。ケミカルパークは、工場運営に不可欠な蒸気などの用役や各種サービスを個社で持たずに、出資者で共有する仕組みで、ベルギーのアントワープなどで展開されている。これを発展させ、カーボンニュートラル実現に関わるコストを分担したり、連携の枠組みに使ったりすれば、取り組みを加速できるかもしれない。石化産業は転換点にきている。


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日刊工業新聞 2023年05月10日

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