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「歴史的に見ても異常な水準」…総合化学メーカーの石化事業、悪化の一途たどる

三菱ケミカルグループ、住友化学旭化成三井化学東ソーの総合化学5社の石化関連事業の四半期ごとの損益は悪化の一途をたどっている。各社関連事業の営業損益の合算は2022年10―12月期は362億円の赤字となり、23年1―3月期は390億円の赤字を見込む。各社の全体業績の悪化要因となった。短期と中長期の両方の対策が必要だ。(梶原洵子)

22年2月にウクライナ紛争が始まり、年間を通じ石化の事業環境は厳しかった。前期の好況に比べ23年3月期は悪化すると期初から想定されていたが、それ以上だった。世界経済減速や中国のゼロコロナ政策に伴う経済低迷で需要が減退し、市況が低迷し利ざやが縮小した。22年4―6月の原料価格急上昇に伴う在庫評価益も、これが落ち着くとはく落。足元で中国景気の回復期待はあるが、当面は厳しいとの見方が強い。

三菱ケミカルグループは世界首位のアクリル樹脂原料(MMA)市況について23年1―3月期はトン当たり1600ドルを想定。前3カ月の同1573ドルに比べ小幅に改善し「23年前半は需要回復を見込めない前提でみる」(中平優子執行役エグゼクティブバイスプレジデント)。

住友化学のエッセンシャルケミカルズ部門は最も赤字が大きく、23年3月期の下期で563億円のコア営業損失を見込む。中東のラービグは石油精製が22年後半から悪化した。石化も汎用品が多く市況に左右される。優良顧客の多い稼ぎ頭のシンガポールの変調も痛手だ。22年頭からアジア市場下落の影響を受けた。「歴史的に見ても異常な水準」(岩田圭一社長)という。

通期を通して四半期黒字の継続を見込む事業は東ソーの石油化学事業だけ。エチレンの一部を外部調達しており、需要減退時に調達を減らして自社の設備稼働を維持しやすい。樹脂製品の脱汎用化も進んでいる。三井化学は構造改革効果もあり22年10―12月まで黒字だったが、23年1―3月は赤字予想とした。

1―6月の需要や市況回復のカギは中国の経済活動だ。足元の市況は中国経済の回復期待から反発しているが、安定した回復はユーザーの生産活動と調達の活発化を待たなければならない。ただ、中国では21―22年も生産設備の新増設があり、まだ動いてない設備がある。需要が回復しても稼働設備が増えれば、市況や個社の販売は思うように回復しない可能性がある。

化学各社は短期的にコスト削減や価格改定で収益改善を図る。原料のナフサ価格は一時期に比べ落ち着いたが、それ以外の輸送費や設備修繕費、エネルギー価格などは上昇が続く。従来の石化製品の値上げは原料価格の上昇への対応が主体であり、原料以外のコスト転嫁は十分ではない。国内では売価改定は引き続き重要課題だ。

業績悪化は構造改革も加速させる。石化ではないが、三井化学と旭化成による衛生材料向け不織布事業の統合をはじめ、2月だけで複数の構造改革が公表された。検討していた案件を決断に移したもので、同様の動きは今後も増える。旭化成の堀江俊保取締役常務執行役員は「もともと戦略再構築の対象は粛々と実行する」と話す。

中長期的には、業界再編を通じて国内石化産業が継続する道筋をつけることが課題だ。再編機運は高まっているとの声もあり、23年以降は再び石化業界が動く時となりそうだ。


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日刊工業新聞 2023年2月16日

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