エチレン生産設備の稼働率8割切る…化学品の需要回復はいつか
化学関連団体から5月以降の国内需要の回復を期待する声が上がっている。世界経済の減速感や物価高の影響などで化学製品の生産や出荷は伸び悩んだ。化学製品の基礎原料となるエチレンの生産設備の3月稼働率は、約11年ぶりに8割を切るなど足元でも不透明感が漂う。それだけに関係者の多くが、新型コロナウイルス感染症の5類移行やインバウンド(訪日外国人)増加などによる経済活性化と需要回復を注視する。(山岸渉)
世界経済の不透明感や物価高の影響などで化学製品の生産や出荷は前年割れが相次いだ。日本スチレン工業会がまとめた2022年暦年のポリスチレン生産量は前年比9%減の65万3819トン、出荷は同9%減の64万5943トンだった。同工業会の室園康博会長(PSジャパン社長)は「景気回復が遅く、汎用樹脂では同じような傾向で低い」と分析する。
一方、コロナ禍の間仕切りなどで一時需要が伸びた塩化ビニル樹脂。塩ビ工業・環境協会によると22年度生産は前年度比同7・3%減で145万9900トン、出荷は同5・5%減で146万5732トンだった。
塩ビ工業・環境協会の桑田守会長(東ソー社長)は「22年度の内需は90万トンと1970年代の水準に落ち込んだ。22年後半から住宅関連の前年割れが続き、海外も中国の不動産関係の投資などが回復までに少し時間がかかる」とみる。
実際に化学製品の基礎原料であるエチレンの足取りは重い。石油化学工業会がまとめた22年度のエチレン生産量は同9・7%減の5471万3000トンだった。
特に足元では3月のエチレン生産は、定期修理プラントの減少で前年同月実績は上回ったが、実質稼働率は前年同月比16・5%減の79・6%だった。8割を下回るのは79・4%だった12年6月以来、10年9カ月ぶり。好不況の目安となる9割を割り込むのは8カ月連続となった。
その中で期待するのがコロナ禍からの〞日常への回復뗉だ。5月8日以降の新型コロナウイルス感染症の5類移行や、インバウンドの増加、それを見据えた4月末からの大型連休など、さまざまな経済活動による需要回復を期待する声がある。「旅行客が増えれば食事もするだろうし、(エチレンが原料となる)食品包装材などが増える」(化学メーカー関係者)と捉える。
桑田会長も「国内での消費が増えるのでプラスになるだろう」と見据える。
室園会長は「3月から(需要は)上向いてはいる。新型コロナの5類の移行に加えて、インバウンドも回復してきている。過去の傾向を見て足元は上がってきているので、今後夏に向けて回復を期待したい」と巻き返しに向けて注視する考えだ。
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