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パワーモジュール基板の有望材料「窒化ケイ素」、破壊靭性をAIで予測する

需要拡大が見込まれるパワーモジュール基板の材料として、壊れにくさを表す破壊靭性が高い窒化ケイ素が有望視されている。産業技術総合研究所中部センターは人工知能(AI)を使い、窒化ケイ素の組織画像から破壊靭性を高精度で予測する技術を開発した。多くの手間とノウハウが必要だった破壊靭性の評価を迅速化し、最適な製造プロセスの絞り込みが容易になる。セラミックス材料開発の革新に期待が高まる。(名古屋・鈴木俊彦)

製品の小型化、高効率化を促すパワーモジュール。ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)の普及に伴ってモーター駆動用モジュールの重要性が増すと予想されている。

過酷で、多様な環境下での稼働を想定し、特に車載用の窒化ケイ素基板では破壊靭性の値が重要になる。ただ、物性の評価は技術者の経験に頼っており、多くの時間を要する。需要拡大に対応し、材料開発を加速するためには簡便で、高精度に破壊靭性を予測する技術が求められていた。

窒化ケイ素の組織画像には粒子の形状、長さ、分布などの情報が含まれており、破壊靭性に関与していることがわかっている。産総研中部センターが開発したAI技術は、画像認識の分野で優れた性能を発揮するアルゴリズムを用いて、組織画像に含まれる複雑な情報を処理し、少ないデータからでも破壊靭性を高精度で予測する。

窒化ケイ素の微細な組織画像と破壊靭性に関する実験データを学習させて破壊靭性を回帰予測、検証したところ、通常のAI学習に比べて少ないサンプル数でも高い予測精度を確認した。「組織画像1枚あれば、秒単位で計測できる」(福島学マルチマテリアル研究部門セラミック組織制御グループ研究グループ長)という。

また、破壊靭性を予測するためにAIが組織画像のどの部位に着目したかを可視化することにも成功。ブラックボックス化していたAIが破壊靭性値を導き出す過程の一端を明らかにした。材料開発でAI活用が進めば生産性の向上、不良品の選別などの品質管理に貢献できそうだ。

この技術を生かし、AIがニーズに対応した破壊靭性を持つ組織画像を生成する技術の開発を進めている。技術者が組織画像を判断し、材料開発に展開していくのとは反対に、AIが再現した画像から検討すべき製造プロセス条件を抽出する“逆問題”へのチャレンジだ。実現すれば、破壊靭性の優れた組織構造の絞り込みが容易になり、窒化ケイ素の材料開発を大きく加速しそうだ。

今後はアルゴリズムなどの専門家でなくても、容易に予測できるようなアプリ化、システム化を現場のニーズを取り入れながら目指していく。「将来的にはバーチャルでの試作を視野に入れている。材料開発を大きく迅速化するだろう」(古嶋亮一同部門軽量金属プロセスグループ主任研究員)と見通す。

実験データが少ないこともあり、材料開発分野でAI活用は少ない。今回、少ないデータからでも重要な特性を予測できたことで、日本の材料開発力の向上につながるとする。

日刊工業新聞 2023年04月10日

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