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ESG債のST売買機動的に…JPXが挑む「デジタル社債市場開設」への課題

日本取引所グループ(JPX)は2024年度末までにデジタル社債の流通市場を開設する。ブロックチェーン(分散型台帳)を通じて発行したセキュリティー・トークン(ST、デジタル証券)を活用し、ESG(環境・社会・企業統治)債のSTを機動的に売買できる市場を目指す。市場参加者に周知して発行案件を掘り起こし、デジタルならではの利便性を生かした市場とする考えだ。(編集委員・川口哲郎)

JPXは太陽光発電などの発電量や二酸化炭素(CO2)削減量換算を監視し、投資家がデータを閲覧できる仕組みのデジタル環境債(グリーン・デジタル・トラック・ボンド)を22年に発行した。このスキームを横展開する形で、発行会社や金融機関、機関投資家の参画を募り、デジタル社債の市場を開設する方向だ。

通常の社債ではなくデジタルにした利点はいくつかある。STの取引執行や監視などが従来より低コストで迅速にできる可能性がある。また小口化した証券化商品が組成しやすくなる。これまで機関投資家に限られていた金融商品の投資機会が個人投資家にも広がる。

債券保有者の情報を本人同意の下に収集できるため、発行会社と投資家との対話も活性化が期待できる。

ただし、普及には課題がある。一つは税制の問題だ。金融機関は債券の利払い金への源泉徴収が行われない特例があるが、STで発行したデジタル社債は適用されない。そのため金融機関は確定申告を行う必要があり、オペレーションが複雑になることからST利用の妨げになっている。

JPXはデジタル社債の活用方法の検討を目的に22年9月から発行体や投資家、金融機関が参加する研究会を開き、オブザーバーとして金融庁を招いた。研究会を立ち上げたJPX総研の高頭俊課長は「当局の理解を得るのが活動の目的の一つ」と話す。STを源泉徴収不適用の対象とする税制改正に向けて、ロビー活動を強化する。

投資家にとって換金の機会が限られる課題も残る。JPXが発行するデジタル環境債は、ライセンスを保持する証券会社しか買い取れない。現状では主幹事の野村証券に売却する以外に投資家の選択肢はない。

流動性の低さを懸念する声もある。株価が毎日変動して売買が活発な株式と違い、社債は頻繁に売買されない。流動性の課題解決としてJPXが示す一つの案が、上場投資信託(ETF)の取引プラットフォームだ。従来の電話による引き合いを自動化し、迅速な価格の提示により取引が円滑になる仕組みで、デジタル社債の取引に応用できるとみる。

デジタル社債の流通市場としては、SBIグループで私設取引システム(PTS)を運営する大阪デジタルエクスチェンジ(東京都港区)が23年からSTの取り扱いを始める。JPXは23年度にデジタル社債の案件発掘と並行して流動性を確保する市場をデザインし、システムの構想を練る。24年度末までに市場創設にこぎつける計画だ。

JPXに続く第2号、第3号の発行案件が出てくれば、デジタル社債市場創設の機運が高まる。JPXは「利便性が高く、環境配慮を訴求できるツールにもなると認知してもらえれば」(高頭JPX総研課長)と市場関係者への啓もうに力を入れる。

日刊工業新聞 2023年03月03日

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