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半導体材料に増産投資、“新生”レゾナックが進む道の全容

半導体材料に増産投資、“新生”レゾナックが進む道の全容

昭和電工は持ち株会社に移行し、「レゾナック・ホールディングス」として1日付でスタートした

昭和電工が1日付で持ち株会社に移行し、新たに「レゾナック・ホールディングス(HD)」として始動した。2020年の昭和電工による日立化成の買収以降、半導体材料を中核とする事業ポートフォリオへとぶれずに進んできた。2社の技術力を受け継ぎ、総合化学からスペシャリティケミカル(機能性化学)へ生まれ変わる。“新生”レゾナックが進む道を追う。(梶原洵子)

“投資家目線”で成長分野を強化

「経営は資源配分とやること・やらないことを決めることだ。“総合化学”はそれを放棄している」。レゾナックHDの高橋秀仁社長は日本の化学大手の代名詞である総合化学からの脱却をやや辛口の言葉で語る。

同社は日立化成の買収で売上高は1兆4000億円超となった。規模に加え、半導体材料という強力な成長ドライバーを得て、「世界で戦うエントリーチケットを得た。スペシャリティケミカルへの変革は今がスタートだ」(高橋社長)と意気込む。

急激な変革の背景には、化学業界を取り巻く事業環境の変化がある。脱炭素やデジタル変革(DX)を推進してグローバル競争力を維持するには、積極投資を支える高い収益力が必要だ。基礎化学品から最先端材料まで多様な事業を持つ総合化学は、一部が落ち込んでも全社業績は極端に悪化しない一方、高成長な事業があっても全社の伸びは小さい。日本の総合化学は変革に迫られている。

その中でレゾナックが選んだのは、市場拡大の続く半導体材料を中心に、「世界トップクラスの機能性化学メーカー」となる道だ。同社によると、現在同社は半導体材料で世界3位、今後の半導体の技術革新を担う半導体製造「後工程」で世界首位の売上高を持つ。

30年12月期には半導体・電子材料部門の売上高を8500億円(22年12月期見通し4400億円)へ引き上げ、全社売上高の約45%(同31%)とする。この比率であれば、半導体市場の伸びを十分に享受できる。

22年には半導体研磨材料(CMPスラリー)や半導体パッケージ用銅張積層板の増産投資を相次いで決めた。足元で半導体市場は弱含みだが、「投資のブレーキは踏まない」(同)。ただ、全ての事業を抱えたままでは投資対象が分散し、全社の成長率は薄まる。そこで21―22年にアルミ缶やプリント配線板など8事業の売却を決めた。ポートフォリオ変革は、一定のところまで進んだ。

レゾナックはCMPスラリーをはじめ半導体材料の増産投資を相次いで決めた(セリアスラリー)

今後を読み解くポイントは“投資家目線”だ。同社は売上高に対する利払い税引き償却前利益比率(EBITDAマージン)を重要な経営指標としており、25年12月期に20%を目指す。半導体・電子材料部門の目標は同30%以上とする。

同社は採算性と資本効率、ベストオーナーか否か、戦略適合性の三つの視点でポートフォリオを運営する考えで、全事業で同20%を目指すわけではない。だが、大きく乖離(かいり)する事業は改善が必要だ。逆に三つの視点に合う成長分野の強化につながる事業は、獲得する可能性がある。

この観点で“昭和電工”を代表していた黒鉛電極と石油化学は対照的なポジションにある。黒鉛電極はスクラップ鉄から鉄製品を製造する電炉で使われる部材で、鉄鋼産業の脱炭素に貢献し、市場拡大が期待される。22年のEBITDAマージンは20%超の見通しで、投資家目線で持っていて損はない。

一方、石化は自社単独で実行できる改善策は乏しい。業績は市況変動に大きく左右されることに加え、今後は脱炭素や資源循環に向けた新技術開発と社会実装に巨額の投資が必要となる。一方、石化はさまざまな産業を支えており、日本になくてはならない産業だ。国内の同業とともに、将来像について解を出さなければならない。

日本の技術は一流だが、経営は課題山積

「会社の文化は確実に変化している」と話す高橋レゾナック社長

レゾナックの変革を知るには、高橋社長を知るのが近道だ。日本の製造業として世界で戦うのは約20年前からの夢だった。三菱銀行(現三菱UFJ銀行)にいた30代の時に米国のM&A(合併・買収)会社へ出向し、「日本の製造業の技術は一流だが、経営は課題が山積している」と感じた。だからこそやりたいと思った。

転じた米ゼネラル・エレクトリック(GE)では価値観の共有や組織文化の醸成、人事戦略の重要さを学び、現在力を注ぐレゾナックの人材改革の土台になった。22年1月の社長就任時には、昭和電工の一番好きなところを「目がキラキラした研究者やエンジニアたち。彼らの可能性を解放したい」と語った。

そんな高橋社長を、最高戦略責任者(CSO)の真岡朋光取締役常務執行役員は「人間味のあるリーダー」、最高技術責任者(CTO)の福島正人執行役員は「一瞬で意思疎通できる。おもしろいリーダー」と語る。

この裏には、高橋社長の徹底的に自分をさらけ出す作戦がある。全社で価値観を共有するには、まず役員が価値観を共有し、率直に意見を言い合える関係にならなければならない。そこで役員と合宿し、子ども時代の失敗談も含めて語った。社長就任後には70拠点を回り、地域別の中規模ミーティングを61回、小規模座談会を110回行い、変革について社員と直接対話した。

社員からは好意的な反応が多かったが、「全く賛同できない」という厳しい声もあった。約100年の歴史を持つ企業の変革は簡単ではない。「覚悟と信念を持ち、変革をやり切る覚悟でレゾナックのスタートを切る」(高橋社長)と語る。

また、高橋社長は人に「二枚舌」と言われたことを楽しそうに話す。というのも、「私には二つの価値観があり、競争が全ての『黒い高橋』と地球環境を考える『白い高橋』がせめぎ合う。二枚舌は自然な話だ」という。

世界が直面する脱炭素や資源循環などの課題は、この二枚舌を両立させなければ解決できない。環境に優しい技術も、利益が出なければ普及しない。これを両立できるのは技術革新だけだ。

レゾナックが横浜市に新設したオープンイノベーション拠点「共創の舞台」

レゾナックはパーパス(存在意義)である「化学の力で社会を変える」を大真面目にやるため、顧客や地域、ライバル会社との技術協力による共創に本腰を入れる。半導体の後工程や自動車用パワーモジュールの共創拠点に続き、24年には横浜市神奈川区に研究開発の中核となるオープンイノベーション拠点「共創の舞台」を全面オープンする。

「会社の文化は確実に変化している」と高橋社長。変化にとまどう人たちをどう引っ張り、昭和電工でも日立化成でもない新しい会社を創り上げるのか。経営陣の手腕と覚悟が問われる。


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日刊工業新聞 2023年01月27日

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