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ホビー製品の金型を作る町工場の「ルアープラモ」、後押ししたのは社員とYoutube

ホビー製品の金型を作る町工場の「ルアープラモ」、後押ししたのは社員とYoutube

マツキの「ルアープラモ」

創業から40年以上、ホビー向けプラスチック射出成型用金型の製造をしているマツキ(東京都江戸川区)。社内のいたるところにロボットやキャラクターのプラキット、模型、エアガン、戦車や鉄道などの模型が並び、同社が手掛けた製品の幅広さと精工さが伺える。その技術を活かし、2021年に初の自社製品「ルアープラモ」を開発、販売開始。「従業員の熱意が後押しになりました」と、同社の代表取締役鈴木崇嗣社長は振り返る。

精密な加工・調整が要

ホビー製品の製造に携わりたい、と飛び込みで入社希望者が来るという同社だが、作っているのはホビー製品そのものではなく、成形するための金型だ。製品の企画・販売を行うメーカーからの発注を受け、金型製造のためのデータを作成。それをもとに、成形する樹脂を流し込む溝などを切削する。ホビー製品は精細な形状かつ、部品数も多い。工場内には昔ながらのボール盤から、マシニングセンタ、放電加工機、試作のための射出成型機などが並び、多品種生産に対応している。

金型の穴あけ工程
 同社の技術が特に活きるのが、篏合(かんごう)調整と呼ばれる工程。プラキットやプラスチック模型は接着剤なしで組みあがるものもあり、部品同士のはめ合いが上手くいくよう、成形するための金型を職人が手作業で調整する。「例えば、重い武器を持つ腕が下がってこないように可動を渋め(動きを硬くする)にするなど、数値に置き換えられない感覚の部分も多い。メーカーとやり取りを重ねてようやく金型が完成します」(鈴木社長)。

社員がこっそり進めていた計画

技術力の高さと対応力から長年大手メーカーの発注を引き受けてきたが、2019年ごろから仕事の波に翻弄されることが増えた。少子化によるホビー製品自体の売上の落ち込みや、海外との価格競争の影響が大きくなった。さらに、20年以降はコロナ禍で生産スケジュールの見通しがより不安定に。加工に入る直前に生産延期の連絡が入ることもあったという。
 このような受注の波に左右されず生産できる自社製品を作ろうと、社員に話を持ち掛けたところ「『実はすでに計画を進めているんです』とルアーのデータを見せられ驚きました」(鈴木社長)。釣り好きの社員の発案で、こっそりルアーを作る計画が進んでいたのだった。

ルアープラモの金型

ただし、ルアーそのものを開発しても競合他社に埋もれてしまう上に、ノウハウもない。そこで、同社の強みが生かせる「ルアー型のプラキット」として製品化を目指すことになった。ルアーのプラキットだけでは2つのパーツを組み合わせるだけで終わってしまう。そこで釣り針も組み上げられるようにしたところ、難易度がかなり上がった。自分で組み立てられる良さを生かし、リップ(水の抵抗を調整する部品)を付け替えられるといった工夫も凝らした。
 金属製の釣り針をつけ、防水塗装を施せば実際にルアーとしての使用も可能だが、あくまでもホビーとして楽しんでもらうことを想定している。価格は2個セットで税込み2025円。

キット一式

吉本芸人が工場に

企画の滑り出しは良かったものの、完成までは1年半を費やした。「従来の生産スケジュールの合間を縫っての自社製品開発のため時間の確保が難しかったのですが、ここでも社員に『早く製品化しましょう』と背中を押されました。社員のやる気がなければ製品化に至らなかったと思います」(鈴木社長)。

開発を続けていた中で、思わぬターニングポイントが訪れた。20年2月に参加したホビー系のイベントブースにて吉本興業のYouTubeチャンネル「吉本プラモデル部」の取材を受ける。その縁で後日吉本プラモデル部がマツキの工場見学動画を撮影し公開。3カ月ほどで約14万回再生された。動画の中でルアープラモを紹介したこともあり、発売前から周知が広がり、動画のコメントでも期待の声が多く寄せられた。

そして21年5月にクラウドファンディングを開始。20万円の目標金額に対し達成率576%の115万円を集めた。YouTubeで話題を集めていたとはいえ、「そこまで注目されると思っておらず、石橋を叩いて渡るような気持ちで目標金額を設定していたこともあり、反応の大きさに驚きました。それでも『きっと一発屋だよね』と思っていたんです」(鈴木社長)。
 しかし鈴木社長の予想は裏切られる。取材依頼が多く寄せられたほか、BtoB関連の仕事の引き合いも増加。「想像を超える形で反響が広がり、事業が拡大しています」(鈴木社長)と手ごたえを感じている。

マツキの鈴木崇嗣社長
 現在はAmazonなどの大手ECサイト、ホビー店、釣具店への卸売りを行っている。自社での販売も開始したいというが、梱包や配送、受発注などの仕組みの構築が課題だ。
 また、ルアープラモの第二弾や、新ジャンルでの自社製品開発も構想している。「取引先からは『ぜひ一発屋で終わらないで続けてください』と声をかけられました」(鈴木社長)。
 絶対的な技術力と社員の後押しから生まれ、マツキに多くの釣果をもたらしたルアープラモ。これからも、同社が荒波を超えていくための推進力になりそうだ。

ニュースイッチオリジナル
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
「BtoBで培ってきた経験や技術があったからこそ、BtoCに挑戦できた」と鈴木社長は話します。今後もホビー向けだけでなく、他業界の仕事もしてみたい、と意欲を込めます。動画は芸人さんのテンポのよい進行に乗って、射出成型をわかりやすく、楽しく学べるのでぜひ観ていただきたいです。

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