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自動車部品大手の東海理化、なぜ高級ボールペンやペンケースをつくるのか

自動車部品大手の東海理化、なぜ高級ボールペンやペンケースをつくるのか

「explorica(エクスプロリカ)」(画像右)のボールペンと「Think Scrap(シンクスクラップ)」のペンケース

トヨタ自動車の内装品などを手掛ける東海理化で、一般消費者向け自社製品ブランドが2つ生まれた。高級ボ―ルペンなどを扱うブランド「explorica(エクスプロリカ)」と、シートベルトの端材と地域の廃材を組み合わせたアップサイクル製品を中心とした「Think Scrap(シンクスクラップ)」だ。いずれも2022年に製品発売を開始。企画製造から販売まで一貫して携わってきた。これまでなかった一般消費者との直接的な関わりが増えただけでなく、販売店、メーカー、地域との繋がりを広げ、社内にも新風を吹き込みつつある。

『人に近いところでの快適性』を表現する

エクスプロリカのブランド構想は16年頃に立ち上がった。プロジェクトを担当するニュービジネスセンターニュービジネスマーケティング部ソリューション企画室の石丸晋也主幹が当時所属していたデザイン部にて、自動車用部品の製造で培ったデザインや考え方を生かして新たなモノづくりを目指す活動がスタート。その後21年に新規事業を行うニュービジネスマーケティング部に同氏が異動し、事業が本格化した。

その背景には業界の変化に対する危機感と挑戦があったと、石丸氏は振り返る。「自動車業界に他業界からの新規参入が増えています。自動車そのものも、電動化や自動運転によりデザインの価値が大きく変化しており、この流れに対応するためにも、我々も新規分野のモノづくりをを通じ、知見を得ることで、自動車分野への相乗効果を生み出したいという狙いがありました」(石丸氏)。製品を世の中に出した時に、多くの人の目に触れ、多様な意見をもらえるBtoC製品にターゲットを絞った。

「私たちは自動車の内装部品をメインでデザインしていますが、そこで培った『人に近いところでの快適性』を表現するのにボールペンは相性がいいのではと思いました」(石丸氏)。人間工学を研究する部署と連携し、ペンを握った時の心地よい形状や適度な重さ、書きやすさなどを工夫。ペン立てに置いた姿や筆記時の美しさにもこだわり、独特の流線形の形状となった。

 さらに、「当社製品の特長である『長く愛用していただける』点も取り入れた」と石丸氏が話すように、表面のパネルを亜鉛ダイカストで製造し、手にふれる部分を丁寧に研磨。その後、高級車の内装部品でも採用されている特殊な塗料で仕上げている。また、高級ボールペンでは専用の替え芯を用いるタイプが多いが、同社ではあえて多くの文具メーカーが製造していて汎用性の高い「4C・D1規格」の替え芯を採用。ユーザーが好きなインクを選べるようになっている。「インクがなくなったらすぐに買えるという点でも、トータルで考えて長く使ってもらえるのではと思います」(石丸氏)。

ボールペンの製造を通じ、「モノづくりの観点が広がった」と石丸氏は実感する。自動車製造に比べ、ボールペンの製品化までのサイクルの速さを体感し、企画から販路拡大まで自社で一貫して携わる経験を初めて得られた。
 22年10月よりAmazonで発売開始し、価格は消費税込み5500円。今後はブランド周知とともに販路拡大にも力を入れる。

地元の端材を組み合わせる

エクスプロリカと同じ時期に立ち上がったシンクスクラップだが、ブランドの狙いは異なる。「シートベルト工場では多くの端材が出ます。以前は一日500キログラム出ていたのですが、現場の努力で300キログラムまで減らすことができました。それでも、年に換算すると約70トン。廃材率にすると全体の数パーセントという数字ですが、これを使って皆があっと驚くような新しい商品を作れないだろうか?と検討を開始しました」。同ブランドの立ち上げを担当した同部同室荒河修里主任はこう話す。

シートベルトの端材

ベルトの素材、質感、高い耐久性などの特徴を考慮していくうち、ペンケースやバッグにアップサイクルすることを思いついた。しかし、自社が持つ技術や製品だけでは形にするのは難しい。「縫製を依頼できる企業探しに苦戦していたところ、地元企業のまるかが事業に賛同してくれ、すぐにペンケースの見本まで作ってくれました」(荒河氏)。また、地元のテント工場からも端材の提供を受けるなど、地域のつながりが広がってきた。
 販売の面でも、地域に助けられた。ノウハウも資金もない中で、どうやって販路や地名度 を拡大するか悩んでいた時に、月に一度名古屋市内で開催されるマルシェに出店してみないか、という誘いがあったのだ。「22年5月から約23カ所のマルシェに出店しました。購入者の声を直接聞けるだけでなく、販売店やバイヤーとのつながりができ、百貨店での催事やコラボレーション企画にもつながりました」(荒河氏)。事業を続ける中で、「端材を使う」という軸に加え「地域のつながり」がブランドを支え、強みになっていった。ブランドを通して地域に恩返しをしたいという思いが高まった。

百貨店での販売を実施

現在の製品ラインアップは、ペンケースやトートバックなど。約半年で500万円ほどを売り上げた。今後も新製品を企画中だが、ベースはやはり地域の端材だ。同社が旗振り役となることで協力会社が広がり、シートの合皮、カーテンの生地などさまざまな端材の組み合わせからできる製品を検討中だという。SDGsにつながるといった観点で購入されることも多く、企業のノベルティへの採用も増加。今後さらなる販路拡大とともに、23年には自社ECサイトの開設を予定する。

既存事業との兼ね合い

2つのブランドとも、立ち上げの転機となったのは、20年に社長交代のタイミングで実施された新規事業の社内公募だという。1904件のアイデアから10テーマが選出され、そのうちの1つが形になったものがシンクスクラップだ。翌年にはニュービジネスマーケティング部が発足し、それぞれの新規事業を専任で行う担当者が配属された。「それ以前からエクスプロリカのアイデアはあったものの、既存の枠組みでは事業化が難しかった。同部ができたことで製品化にこぎつけた」(石丸氏)。

ただし、新規事業推進のための社内調整は今も続く。自動車製造では安全や品質を担保するため、長年のノウハウの蓄積をもとに磨いてきたルールや仕組みがしっかりと存在する。しかし、新規事業を行っていく中では既存事業で構築された仕組みやルールに当てはまらない部分も当然多く発生する。「自動車製造のためのルールをすべてペンケースに当てはめる必要はない。足かせにならないよう、どう変えていくか、弾力性を持たせるか。(社内の)枠組みを変えるためにはコミュニケーションを重ねるしかない」と荒河氏は話す。

例えば、工場では生産性を高めるための工程管理や生産改善が徹底している。その中で、生産性を落とさずシートベルトの端材加工をしてもらう必要があった。はじめは荒河氏自ら工場に入り端材加工を行っていたが、工場の人たちとの会話を重ねていく中で事業に対する理解が深まり、既存の工数管理を継続しながら端材加工も仕事として取り組んでくれるようになったという。「社内では当初『ゴミに対してお金をかけてわざわざ製品化する意味はあるのか』といった声もありました。しかし工場の方々がポジティブに作業に取り組み、事業を後押ししてくれるようになったことは大きかったです」(荒河氏)。

端材を切りそろえる作業工程

部品共通化や電動化、他業界からの参入など、自動車産業をとりまく環境が大きな変化を迎えており、新規事業を立ち上げ活路を見出すメーカーが増えている。
 同社はこの他にもデジタルキーをはじめとした新規事業を積極的に展開。新規事業領域にて30年度に150億円の売上を目指している。その中にあって、BtoC製品に関する事業は売上規模ではBtoB事業に劣る場合が多い。しかし、スピード感を持って製品を開発し、購入者や販売店からの声を取り入れながら自社が主体となって早いサイクルで事業を回していける点は既存事業では得られないメリットだ。自社のブランドや知名度向上や、新たな事業者の開拓、視点の獲得など、売上以外の価値をもたらし、自社の可能性を広げることにつながる。


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ニュースイッチオリジナル
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
昨年は中小企業でのBtoC戦略を中心に取材してきましたが、企業規模が大きくなれば事業が楽になるわけではありません。組織規模が大きい分、折衝の苦労も発生しますし、人数が多いからといって新規事業に人員を多く割けるわけでもなく…。それでも事業をやり切る担当者たちの支えになっているのが、社外とのつながりというのも特徴的だなと思いました。

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