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洋上風力開発加速へ、風車製造のサプライチェーン弱体化にどう対応するか

洋上風況調査を低コストに

政府は2050年のカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成を宣言し、重点分野の一つとして洋上風力が選ばれている。「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」が設置され、「洋上風力産業ビジョン」(2020)が作成され、30年までに10ギガワット(ギガは10億)、40年までに30ギガ―45ギガワットの案件を形成するのに加え、ライフタイム全体での国内調達比率を40年までに60%に、着床式の発電コストを30―35年までに8―9円/キロワット時にすることが目標となった。一方で、以前は複数社あった国内の大型風車メーカーが19年までに風車の設計・開発・製造から撤退し、風車製造のサプライチェーンの弱体化が懸念されている。

このような状況の中、今後大量導入されるさまざまなメーカー・型式の風車に対応可能な風力発電運用・メンテナンス(O&M)改善技術を開発・実証・実用化する必要がある。

産業技術総合研究所(産総研)風力エネルギーチームは、福島県の再エネ導入支援事業「風力発電の維持管理等の技術開発・人材育成拠点の形成」を受託し、先端的な風車技術の実証に必要な大型試験装置の導入、整備を進めるとともに、国内企業と連携する体制づくりを進めている。

産総研は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の洋上風況マップ(NeoWins)の作成を主導し、洋上風力発電が有望な海域の特定に貢献してきた。次フェーズとして、洋上ウインドファームの建設前に必要な現地での風況調査では、高い信頼性でありかつ低コストな観測・評価手法の確立が必要である。神戸大など他の機関とともに受託したNEDO洋上風況調査手法の確立プロジェクトでは、青森県で複数のレーザー式風速遠隔計測装置を使用した国内初の大掛かりで長期間の洋上風況観測を実施した。

信頼性の高い、しかし設置コストの高い洋上気象観測マストによる計測と比較して十分な精度で高い信頼性のデータが得られることを実証した。この成果を元に洋上風況調査手法を確立し、今後、NEDOガイドブックとして公開される予定である。これにより、国内の洋上風力開発が加速すると期待している。

産総研 再生可能エネルギー研究センター 風力エネルギーチーム 研究チーム長 小垣哲也
 福井県出身。1999年度の入所以来、風力発電に関する研究開発に取り組んでいる。時代の流れに伴い、一時は産総研内で風力発電に関する研究者が1人となる時期を経験するも、粘り強く研究開発を続け、現在ではようやくチームとして組織的な活動ができるようになった。さらに社会に貢献したいと考えている。
日刊工業新聞 2022年12月15日

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