名古屋工大が市場創出に挑む、「焼かないセラミックス」の可能性
化学反応で原料結合 環境・資源問題の解決策に
高温で焼成するのが常識とされてきたセラミックス製造で二酸化炭素(CO2)排出量削減、省エネルギーが期待できる無焼成固化技術の研究が進んでいる。名古屋工業大学先進セラミックス研究センター長の藤正督教授らは、異素材との複合化による機能性向上など「焼かない(無焼成)セラミックス」の特性に着目。セラミックスに新たな価値を付加する同技術の可能性を生かし、環境対応と市場創出に挑んでいる。(名古屋・鈴木俊彦)
同研究センターの調べによると、セラミックス製造の各工程で排出されるCO2の約6割が焼成工程で生じている。焼成工程を不要にする同技術を活用すれば、CO2排出量の大幅削減が期待できる。省エネ効果も大きく、重油を燃料にした焼成と比べると、エネルギー消費量を約10分の1以下にすることも可能という。
高温で焼成する製法と異なり、同技術はメカノケミカル処理という手法を用いる。セラミックス原料粒子同士を化学反応させて結合し、固める製造技術だ。
セラミックス原料を直径5ミリメートル程度のボールミルとともに容器に入れて回転させ、剪断力の作用によって摩砕する。原料粒子の表面を「やさしく磨くようなイメージ」(藤教授)で削ることで粒子表面の活性を高め、化学反応を起こしやすい状態にする。
表面が活性化した原料粒子を水、酸、アルカリなどの溶媒と混合することで粒子同士が固体架橋という強度を備えた構造となって結合し、固化する。従来ある粉体処理の技術、装置を活用できる。
同技術で製造したセラミックスの成形体の特性もわかってきた。「コンクリート以上ファインセラミックス未満」(同)の強度を持ち、原料や粒度分布で違いがあるものの収縮率がほぼゼロと、成形品質の確保が見込める。表面形状の転写性が良好なことも確認しており、鋳込み、加圧、押し出しなど各種成形が可能で「従来の窯業技術を生かせる」(同)製法だ。使用する材料によって、固化時間は1分間程度から24時間という。
無焼成セラミックスの活用については「従来のセラミックスの代替ではない」(同)と考えている。焼成工程が不要となることで、セラミックスに新しい機能、用途を付与し、新たな価値を見いだそうと用途開発の可能性を探っている。
焼成に適さない素材との組み合わせは、その一つ。カーボン、金属、木材などと組み合わせた複合化、電子回路を組み込んだハイブリッド化など通常のセラミックスで作れない機能を得るのが目的だ。実用化を目指し、産学連携で自動車部品などでの活用のほか、3次元(3D)プリンターを使った成形にも試み、研究を重ねている。
藤教授は無焼成セラミックスの原料供給を行うベンチャー、F―Plan(岐阜県多治見市)を2016年に設立し、企業の研究開発を後押ししている。無焼成セラミックスのメリットを引き出して「環境対応、資源問題など課題解決につなげたい」(同)とし、モノづくりの持続的発展に貢献する素材として可能性を追求する。
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