ロボットを導入したプリント基板メーカーが効果を実感する瞬間
プリント基板の設計、試作から量産まで手がけるキョウデンは2018年、長野県箕輪町にある本社に産業用ロボットを設置した。自動化による生産性向上を目的としてロボットを取り入れたが、導入当時は人よりも動きが遅く、生産効率が低下するという課題に直面した。だがロボットの改良を重ね人との協働が進んだ結果、作業者1人当たりの生産量が増加。将来は他拠点でも産業用ロボットを導入するとともに、無人搬送車(AGV)の採用も視野に入れる。(阿部未沙子)
「アイデアはあったが知識が不足していた」。ロボットの導入当初を振り返るのは、基板統括本部本社工場の伊藤和寛工場長。当時はプリント基板の製造に産業用ロボットを使う事例が少なく手探りだった。
同社にあるロボットは、基板上の回路の外観を検査する工程や露光工程などを担う。当初はロボットの調整がうまくいかず、導入前に比べて作業時間が増えていたという。
ムダを省くことから始めたが、課題は山積していた。例えば、露光工程ではロボットがハンドに基板を吸着させ、隣に位置するロボットに基板を渡す作業がある。しかし導入間もない頃は「ハンドに吸着した基板が、うまく取り外せないことがあった」(伊藤工場長)。
そこで、人の動きを参考にしてロボットの動きを変えたほか、基板をつかむハンドの材質を変更して、基板を剝がしやすくした。さらに、作業を高速化するにはロボットの安定性を高める必要があったためロボットの土台部分を強化。1年ほどかけて改良した結果、改良前に比べ作業時間が約3秒早くなった。
ロボット導入の効果を実感するのは、ロボットが停止した時だという。停止すると生産量が落ちるため「インパクト(影響)が大きい」(伊藤工場長)。他方で「ロボットのトラブルは思いの外、少ないことが分かった」(同)と率直な感想を述べる。故障による停止を避けるため、メンテナンスにも力を入れている。
ロボットを含めた自動化により、人の働き方も変化した。少量多品種に対応できるようになったため、1人が管理できる機械の台数が増えるとともに、検査工程に人を多く割り当てることも可能になった。
検査工程でもロボットを使用しているが、ロボットはあくまで「検査だけを担当」(同)しており、最終的な判断は人が行う。ロボットと人との分業により、人は確認作業に専念でき効率向上につながった。
経営面でのメリットとしては「(ロボットを採用する前に比べると)1人が生産できる量を増やせた」(同)と認識。15年前と比較して、1人当たりの生産量は20倍ほどになった。
産業用ロボットは大阪事業所(大阪府泉大津市)にも導入する予定だ。またAGVを用い、クリーンルームの清潔な環境の維持を目指す。同社はAGVを試験的に導入したことがあったが、「人との共存が難しかった」(同)という。生産性の一段の向上に向けて再挑戦していく。