ニュースイッチ

人手足りぬ「自動車整備」、業界一丸で挑む改革の行方

自動車整備業界が人手不足にあえぐ中、依頼者の自宅などに出張し整備や修理を行う出張整備を拡大する動きが広がっている。出張整備は整備士の自由な働き方が可能で収入増につながり、人材の流出を防ぐ効果も大きい。一方、現行法令では認定工場内でなければできない整備もある。これに対しセイビー(東京都港区)などは任意団体を立ち上げ、出張整備の範囲拡大に向け法令改正を要望。今後さらに高まる整備需要に応じるため、業界一丸で改革に挑む。(増田晴香)

整備業界では低賃金や厳しい労働条件などを理由に人手不足が深刻化。人材流出に加え、自動車整備学校への入学者数も減少している。厚生労働省の「職業安定業務統計」によると、2021年度の自動車整備業の有効求人倍率は、全職種が1・09倍であるのに対し4・21倍と大きく上回る。高齢化の加速も課題だ。

車の出張整備を手がけるセイビーは現在、民間工場やディーラーからの転職や副業などによる整備士約400人と契約している。整備士は働く頻度や曜日・時間帯などを自由に設定可能。利用者からネット経由で依頼を受け、対応できる整備士をマッチングする仕組みだ。

時給は一般的な整備士の2―3倍となる3000円以上を保証する。セイビーの佐川悠最高経営責任者(CEO)は「当社の整備士への応募は増えており通過率は約20%」と説明。好待遇で業界が注目する。

自動車整備市場は車の平均使用年数の上昇により、整備・修理の必要台数が増加。整備の提供不足が懸念されるため整備士の確保が急務だ。また新興の電気自動車(EV)メーカーなどはディーラー網を持っておらず、出張整備自体の需要も高まりつつある。

現行法令ではブレーキパッド交換など特に重要な部品を扱う作業は認定工場外では行えず、出張整備で対応できる内容は限定されてしまう。そこで、セイビーをはじめ整備士の専門学校や関連の業界団体など6社・団体が「出張自動車整備推進協会」を設立。出張自動車整備を推進するための政策提言を発表し、国土交通省など関係各所への要望活動を開始した。

参加会員である日本自動車車体補修協会の吉野一会長は「出張整備の市場調査をした後、作業の安全性を検証できた部分は規制緩和を求めたい」と強調。佐川CEOは「当社の事業拡大はもちろん、業界の課題解決につなげる」と意気込む。整備業界の明暗を分ける議論に関心が高まる。

日刊工業新聞 2022年11月23日

編集部のおすすめ