“立食宴会”復活狙う、ホテル業界はコロナ感染懸念払拭できるか
コロナ禍でホテル業界は大きな打撃を受けた。宿泊はウィズコロナの定着や政府の全国旅行支援の開始、インバウンド(訪日外国人)需要などで回復傾向にあるが、ホテルを支える事業の一つ、宴会・パーティーはいまだ需要が低迷する。そんな中、日本ホテル協会(東京都千代田区)は安全・安心に配慮した立食パーティーの体験会を実施した。宴会への懸念を払拭し、需要回復に向けて機運を高めたい考えだ。
体験会は帝国ホテル東京(同)で開かれ、ホテルで宴会を開くことの多い経済団体加盟企業の社員や同協会加盟ホテルの関係者など約200人が参加した。食事は黙食、会話中はマスク着用、料理をつかむトングを持つ際は手指のアルコール消毒など、基本的な感染症対策を参加者に周知した上、注意を呼びかけるパネルも設置した。
また会場には丸テーブルを設置し、密にならずに適度に体験者が距離を保つようにした。体験者はルールを守りつつ、久しぶりの歓談を楽しんでいた。
体験会では、理化学研究所の坪倉誠チームリーダー(神戸大学大学院教授)がスーパーコンピューター「富岳」を用いた宴会場での飛沫(ひまつ)飛散のシミュレーション結果を報告。一般的に宴会場は天井が高く、法令で機械換気が義務付けられている。坪倉チームリーダーは室内の空気が換気されて浄化される様子を紹介した上で、さらに歓談時にはマスクを着用などすれば「感染リスクをかなり低減できる」と説明した。
一方、主催した同協会の森浩生会長(森ビルホスピタリティコーポレーション社長)は、「宿泊は(コロナ禍前に)かなり戻りつつあることを実感しているが、飲食を伴う立食パーティーは全く戻ってきていない」と、業界の置かれた苦しい事情を明かす。
ホテル事業の主な収益は宿泊、宴会・パーティー、飲食の三つとなる。会場となった帝国ホテル東京によると、着座しての宴会・パーティー需要は増加傾向にあるものの、同ホテルにおける立食パーティーの開催件数はコロナ禍前の19年度比で20年度に9割減まで落ち込んだ。現状では7割減まで回復したものの、厳しい状況に変わりはない。
体験会を実施することで宴会・パーティーの安全性を周知することも狙いだが、「立食パーティーの楽しさを皆さまにもう一度味わっていただきたい」(森会長)との思いもある。
宴会・パーティーではアルコール類を提供することもあるため、マスクをせずに大声で談笑すれば当然、感染リスクは上昇する。このため、開催や参加を不安視する人は多い。ただ、今回の体験会で講じたのは基本的な感染対策ばかりで、それを守っていれば感染リスクは日常生活とさほど変わらない。コロナ禍で定着した行動様式を変えるのは容易でないが、ウィズコロナの宴会・パーティーのあり方についてホテル業界の模索は続く。