「軽自動車」存在感も、メーカーに難しい選択が迫られるワケ
軽自動車の存在感が増している。全国軽自動車協会連合会(全軽自協)のまとめによると、2021年末時点の軽4輪車の普及台数は100世帯当たり54・10台と高水準を維持。全国の軽4輪車保有台数は3149万8010台と過去最高を更新した。メーカーはテレワークなどに使う「個室」や自分らしさを表現する手段としての価値を訴求することで、顧客層の開拓に取り組む。一方で価格上昇とユーザーの高齢化が加速しており、どのような立ち位置を取るかが問われている。(江上佑美子)
「軽キャブバンをプライベートで使うケースが増えている」。スズキの担当者は26日に発売した新型軽商用車「スペーシア ベース」の企画背景をこう説明する。テレワークや車中泊、ペットとの旅行などに荷室空間が広い商用車を活用したいとの声が高まっている点を踏まえ「先入観を捨てて」(スズキ)開発。机や棚、仕切りとして使える「マルチボード」1枚を標準装備し、多様なニーズに応えられるようにした。
運転席と助手席には厚みのあるシートを採用するなど、乗用車並みの乗り心地を確保。軽で初となるサイドエアバッグを搭載し、安全性にも配慮した。
ホンダは軽乗用車「N―ONE」を一部改良し26日に発売した。個性あるデザインを求める人に向けて、外装にクロムメッキの加飾を施すなどの工夫をした特別仕様車を新たに設定した。
脱炭素の流れの中、軽の電気自動車(EV)投入も加速している。6月に日産自動車が「サクラ」、三菱自動車が「eKクロスEV」を出したのを皮切りに、トヨタ自動車、ダイハツ工業とスズキが23年中、ホンダが24年前半に商用車の発売を予定している。
一方、安全装備の付加などに伴う価格上昇で、気軽に使える移動手段としての軽の価値は薄れつつある。12年にホンダが発売した初代N―ONEの価格は109万5239―162万6429円(消費税抜き)だったが、現行車は145万4000―183万9000円(同)。総務省の小売物価統計調査によると、8月の軽自動車の平均価格は152万6213円で、10年前と比べ41・2%上昇した。
ユーザーの高齢化も進んでいる。日本自動車工業会(自工会)の調べでは、軽乗用車ユーザーに占める65歳以上の割合は、13年度は19%だったが21年度には35%に拡大した。「軽はライフライン。ユーザーは高齢者の割合が高く、軽がなくなって大きな車しか使えなくなった場合、経済面での影響が大きい」(自工会)と懸念する。
買い物などの「日常の足」としての役割を維持しつつ、高付加価値化や環境対応をどのように進めるか。メーカー各社は難しい選択を迫られている。