ニュースイッチ

「裸眼視力を改善」「遠近両用使い捨て」…コンタクトレンズの高付加価値競争で勝ち残るのは誰か

「裸眼視力を改善」「遠近両用使い捨て」…コンタクトレンズの高付加価値競争で勝ち残るのは誰か

シードの「シード ワンデーピュア ビューサポート」。短い視距離で瞳の動きをサポートする

コンタクトレンズの多様化が進んでいる。中でも裸眼の視力を改善する機能を有するレンズや、遠近両用レンズなど高付加価値製品の注目が高まっている。コロナ禍での生活様式の変化や近視の低年齢化、コンタクトレンズを使用する人の高齢化などが背景にある。メーカー各社は製品ラインアップの拡充、マーケティングの強化などで差別化を図る。(安川結野、名古屋・永原尚大)

シード、ワンデーピュア1.5倍増 遠近焦点合わせやすく

シードが2021年4月にリニューアルして発売した「シード ワンデーピュア ビューサポート」。レンズ中心部分には、遠くを見るときにピントが合うよう近視矯正の度数を配置する一方、レンズ周辺に近くを見るための度数を置く独自構造により、瞳の焦点を調整する目の働きをサポートする。

遠くにも近くにも焦点を合わせやすいという特徴を分かりやすく訴求。21年4―12月までの同製品の売り上げは、リニューアル前の20年同期と比較して約1・5倍に伸びたという。シードの金沢寛子部長は「スマートフォンの普及に加え、コロナ禍でオンライン授業やリモートワークが浸透し、デジタル機器に向かう時間が長くなった。短い視距離にも焦点を合わせやすい設計が受け入れられた」と説明する。 

コロナ禍で落ち込んだコンタクトレンズ市場は回復が鮮明だ。20年の国内出荷額は、コンタクトレンズとケア用品を合わせて2701億円(前年比6・5%減)だったが、21年はコロナ禍前の19年とほぼ同水準の2879億円。日本コンタクトレンズ協会の松見明事務局長は「外出機会が回復したことに連動して市場も戻った。視力矯正が必要な人は多くニーズは堅調。コロナ前まで市場は成長しており、22年もその傾向が続く」と分析する。

オルソレンズに成長期待、睡眠中に近視を改善

ただコロナ禍で生活様式が変化する中、シードがビューサポートをリニューアルしたようにメーカーの戦略には変化がみられる。

注目を集めるのが「オルソケラトロジーレンズ」だ。このオルソレンズは寝ている間だけ装着し、角膜の形状を変化させることで、裸眼の視力の改善を図るもので今後、成長が期待される。

メニコンのオルソケラトロジーレンズ

社会のデジタル化が加速する中、さらにコロナ禍に見舞われ、スマホで動画コンテンツなどを楽しむ機会が増えた結果、近視が世界的な問題になっていることが背景にある。豪ブライアン・ホールデン視覚研究所は、50年には世界人口の49・8%にあたる約47億6000万人が近視になる見通しを示す。

中でも、中国政府は国民の近視率の高さを問題視する。政府は近視人口を抑制する目標を掲げ、その手段として近視の進行を抑制するオルソレンズの着用を促す。進行が進む8歳前後の子どもを中心に100万人超がオルソレンズを使っていると言われる。

メニコン、中国市場深耕

現地メーカーに次いでシェアで2番手に位置するメニコンは「伸び盛りではあるが、人口に対して使用率はまだ高くない」(海外統括本部の竹下憲二事業部長)と分析した上で、「中国は欧州や米国など他を大きく引き離す市場になる」(同)として深耕する。

欧州やアジアでもオルソレンズ市場は活発だ。米ジョンソン・エンド・ジョンソンは、メニコンのOEM(相手先ブランド)供給を受けて米国とシンガポールで販売する。メニコンも英、仏などの欧州と豪州、アジアで展開する。

日本でも有用性に注目する医師がオルソレンズを処方する事例がじわりと増えてきた。オルソレンズは6時間程度の装着が推奨されており、「睡眠時間を確保しやすい子どもへの使用を保護者が検討するというケースが増えている」(日本コンタクトレンズ協会の松見事務局長)という。

遠近両用使い捨てレンズ、「老眼」年齢低下傾向

遠近両用コンタクトレンズも成長が期待される製品の一つ。松見事務局長は、「若い頃からコンタクトレンズを使っていた人が40―50代になり、遠近両用の使い捨てコンタクトレンズを使う人が増えている」と説明する。またコロナ禍での在宅時間増加もあり、近いものが見えにくい「老眼」の初期症状が出始める年齢が低下傾向にあることも背景だ。

シードは他社に先駆けて、遠くから近くまでの広い視距離で安定した見え方を維持する「拡張焦点深度」の原理を採り入れた1日使い捨ての遠近両用コンタクトレンズ「シード ワンデーピュア イードフ」を市場に投入。成長ドライバーに位置付ける。金沢部長は「厚い製品ラインアップで、あらゆるステージのユーザーの好みやニーズに対応していく」と話す。

またメニコンは老眼の低年齢化に対応して3月、18年に発売した「2WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリック」の販売戦略を変えた。タレントの桜井翔さんを起用して、遠近両用を「老い」の象徴と思わせない販売戦略を展開し、30―40代への拡販を狙う。

メニコン・シード、海外展開加速 存在感高める

国内コンタクトレンズメーカーはメニコンとシードが上位2社で、22年3月期の売上高はそれぞれ1001億円(前期比16・2%増)、288億円(同0・8%増)。国内市場ではほかに外資系のジョンソン・エンド・ジョンソン、ボシュロム・ジャパン、日本アルコンなども存在感を示す。

一方、日本の2社も海外展開を加速している。メニコンの22年3月期の海外売上高比率は前期比8・1ポイント増の25・7%と伸び、26年3月期には35%を目標に掲げる。シードも未進出国に積極的にアプローチする方針を示し、23年3月期の海外売上高比率は16・0%(前期比1・2ポイント増)を見込む。

販売面に関しては、シードの浦壁昌広社長は「(22年3月期は)遠近両用コンタクトレンズやオルソケラトロジーレンズなど付加価値の高いものを中心に、営業を強化した1年」と振り返る。実際にシードの22年3月期のオルソレンズの売上高は前期比29・6%増と大きく伸びた。

コンタクトレンズメーカーが国内外で競争に打ち勝つには、オルソレンズなど高付加価値製品で存在感を高めながら、近視矯正というボリュームゾーンでシェアを固める戦略が重要になってくる。

日刊工業新聞2022年8月30日

編集部のおすすめ