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サーフィンから熱中症まで…増える時流を捉えた「ミニ保険」、それぞれの保障内容

サーフィンから熱中症まで…増える時流を捉えた「ミニ保険」、それぞれの保障内容

コロナ禍でサーファーが増え、サーフィンの事故に備える保険が登場

時流を捉えた通称ミニ保険と呼ばれる少額短期保険(少短)が続々と登場している。東急少額短期保険(東京都渋谷区)とサーフレジェンド(神奈川県藤沢市)は2020年東京五輪で正式種目に採用されて人気が高まるサーフィンの愛好家向け傷害保険を発売。住友生命グループのアイアル少額短期保険(東京都中央区)は、熱中症の治療・入院に見舞金を支払う保険を市場投入した。小回りのきく少短の強みを生かし、トレンドを反映した商品で市場を切り開く。(大城麻木乃)

サーファー向け傷害保険/熱中症保険

少短は保険金額が少額で契約期間が短い保険を指す。通常の保険商品よりも開発期間が短く、挑戦的でユニークな商品が多いのが特徴だ。

東急少短とサーフレジェンドはサーフィンをはじめとしたマリンスポーツ愛好家向けの保険「波伝説保険」を発売した。サーフレジェンドはサーファー向け波情報サービスの提供が主力で、本社(神奈川県藤沢市)はサーフポイントの辻堂海岸沿いにある。近くの海は五輪効果とコロナ禍によるリモートワークの広がりで「平日でも波乗りが増えた」(サーフレジェンド)という。

東急少短とサーフレジェンドのサーファー向け保険(イメージ)

懸念されるのが、サーファー同士の衝突によるケガだ。サーフィンはコントロールが難しい競技のため、海に人が多くなると、事故が起きやすい。上級者ほど「自分はきちんとコントロールしていた。相手が悪い」と捉え、ぶつかっても無言で立ち去ることもあるという。そこで両社は海を安全に楽しむ人を増やすため、サーファーに的を絞った保険を発売した。

実のところ、通常の傷害保険や自動車の賠償責任保険の特約でもサーフィンによる事故をカバーできる場合もある。だが、サーフレジェンドが波情報サービスの顧客を対象にした調査で、各種傷害保険に未加入と答えた人の割合は、6割にのぼったという。通常の傷害保険に加入を勧めるよりも、「サーファー保険に入りましょうと伝えた方がインパクトがある」(東急少短)ことから、今回、新しい保険を発売した。

保険料は月310円と値頃感のある価格帯で、他人へケガなどをさせた場合に最大1000万円を補償する。両社は保険とあわせ、海でのルールやマナーを守るよう啓発する活動も展開し、より安全にマリンスポーツを楽しむ人を増やしていきたい考えだ。

アイアル少額短期保険は、スマートフォン決済のペイペイから加入できる熱中症専用保険「熱中症お見舞い金」を発売した。4月の発売後、猛暑が続いた6月下旬には、1日当たりの加入件数が1000件を突破。8月5日までに累計5万件を超えるヒット商品となっている。

1日100円から申し込め、入院した場合は保険金3万円を受け取れる。家族による申し込みも可能で、保護者が子供の部活動に備えるケースや遠方に住む両親のために加入するケースが多いという。熱中症の患者数は年間約30万人、緊急搬送者は9万人とされ、残暑も厳しくなる見込みの中、まだ売れ続けそうだ。

アイアル少額短期保険の熱中症保険(イメージ)

このほか、コロナ禍の巣ごもり生活でペットの不調に気付く人が増えたことを受け、チューリッヒ少額短期保険(東京都中野区)は高額な治療費に備えるペット保険「犬のがん保険(骨折・脱臼プラス)」を7月に発売した。がん(悪性腫瘍)に加え、骨折や脱臼も補償の対象とする。

契約数1000万件突破、生保・医療56%増

日本少額短期保険協会(東京都中央区)によると、2021年度の少額短期保険の保有契約件数は前年比10%増の1054万件と、06年の少短登場後、初めて1000万件を突破した。収入保険料は同8%増の1277億円、少短業者は前年より5社増の115社となり、いずれも右肩上がりで伸びている。

保有契約件数の内訳を見ると、家財が79%、ペット7%、生保・医療7%となり、賃貸住宅の入居時に不動産会社から勧められることもあり、家財が大きな割合を占める。ただ、家財の前年比伸び率が5%と1ケタ台にとどまるのに対し、生保・医療は56%増と大きく伸びた。

けん引したのは、「コロナ保険」と呼ばれる新型コロナウイルス感染症に備える保険だ。感染すると、10万円など保険金が受け取れる商品で、足元は第7波の流行で採算が合わなくなったため販売停止が相次ぐが、時流に合った商品を投入すると、大ヒットする可能性を示した。

同協会は22年度も5―6社の会社設立が見込まれ、保有契約件数と収入保険料も21年度並みの8%程度の成長を予想する。

少短市場が着実に拡大する一方、世間の少短事業者へ向ける目線も厳しくなっている。6月に保険ベンチャーのジャストインケース(同中央区)がコロナ保険の保険金を大幅に減額したことで、ペッツベスト少額短期保険(同千代田区)が保険金の支払い遅延でそれぞれ行政処分を受けた。保険は消費者の信頼の上に成り立つビジネスだけに、顧客の期待を裏切る行為は事業基盤を揺るがす事態に発展しかねない。

同協会によると、ホームページで保険金の支払い能力などを記した情報開示(ディスクロージャー)を行っている少短事業者は7割と、依然として3割の事業者が適切な情報開示を行っていない。協会としても、セミナーや声がけなどを通じて情報開示を働きかけ、消費者の信頼回復に努めたい考えだ。

日刊工業新聞2022年8月19日

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