“ベンチャーの都”京都から、注目のスタートアップが離れる背景事情
京都で注目のスタートアップが、来春京都を離れる。京都大学発のアトミス(京都市上京区)がそれ。事業拡大の資金調達に成功したものの、府内で拠点拡大ができなかったという。京都では行政による支援の充実で起業の機運が高まっているが、あるスタートアップ経営者が「業種によっては起業後の成長が難しい」と指摘するなど、課題も残る。(京都・小野太雅)
アトミスは「多孔性配位高分子(PCP)」と呼ばれる材料を手がける。無数の小さな穴に二酸化炭素(CO2)を取り込んで回収したり、水素を貯蔵したりするなど、脱炭素での活用が期待されている。
同社はPCP材料の開発や用途開発のスピードを速めるため、2023年4月に神戸市の産業クラスター「神戸医療産業都市」へ本社移転を決めた。研究所や試作棟を含めた投資額は12億円以上で、社員数も稼働日までに現在の16人から25人前後まで増強する。浅利大介アトミス最高経営責任者(CEO)は移転理由について「府内で移転したかったが、化学工場を整備できる場所がなかった」とし、京都を離れることを残念がる。
京都は戦後、エレクトロニクス産業を中心に多くのベンチャーを輩出し、京セラや日本電産のような世界的な大企業も生み出た。しかし平成以後、その流れは途絶えている。京都府も危機感を抱き、19年策定の京都府総合計画にスタートアップ創業支援策を明記するなど支援策を拡充。都道府県の開業率(雇用関係が新規で成立した事業所数から前年度の同事業所数を割った数値)ランキングでは、15年度の18位(4・7%)から20年度は11位(5・2%)と順位を大きく伸ばすなど改善も見られる。
一方で企業の流出という課題が残る。帝国データバンクによると、12―21年累計で企業の転入数から転出数を差し引いた数は京都府はマイナス9社。アトミスが移転する兵庫県は同期間で160社の転入超過で、大きく引き離された格好だ。
京都のスタートアップ経営者は京都府・市の支援策について「事業内容と京都の地理的特徴がマッチしていないケースもある。支援するスタートアップの分野を絞ったほうがいいのでは」と指摘。スタートアップをどう育て上げることができるのか、かつての“ベンチャーの都”の実力が問われている。