ドコモがスタートアップと連携加速、社員の意識改革につなげられるか
NTTドコモが仮想現実(VR)や拡張現実(AR)などの総称である「XR」、ヘルスケアといった新規事業の拡大に向け、スタートアップとの連携を加速している。4月には、これらの事業などを注力領域に掲げた投資ファンドを立ち上げたほか、投資子会社のNTTドコモ・ベンチャーズ(NDV、東京都港区)が事業分野ごとに人材を配置した。社外との交流に必ずしも積極的でなかったドコモ社員の意識改革につなげられるか試される。(張谷京子)
ドコモはNDV、NTTファイナンスと共同で、運用総額150億円の「ドコモ・イノベーションファンド3号投資事業有限責任組合」を設立。ドコモの戦略領域である「ヘルスケア・メディカル」「XR」「5G・IoT」での共創を、同ファンドのテーマの一部として設定した。
新ファンドの立ち上げに先駆け、これらの新規事業における提案力を拡大してきたのがNDV。同社は、2021年12月に、ドコモ事業部側のニーズを理解してスタートアップを紹介する「カタリスト」を設置。XR、ヘルスケア・メディカルの各分野ごとに3―4人の人材を配置し、東京と米シリコンバレーにある両拠点の横断でチームを組んで活動している。
NDVは以前、ドコモの事業部側からの指示を基に、スタートアップを紹介することが多かった。カタリストの設置で、今後はより自発的にスタートアップとの協業を提案していきたい考え。笹原優子NDV社長は「こちらからドコモの戦略を咀嚼(そしゃく)して、提案できるような人材が育つようにしていきたい」と意気込む。
ただ、こうした取り組みが、スタートアップとの協業にどうつながるかは未知数。というのも、ドコモはこれまで、同業他社と比べてスタートアップとの協業を苦手としてきたからだ。イノベーションリーダーズサミット実行委員会と経済産業省が18年から毎年発表している、スタートアップとの連携を通じた変革に積極的な大企業のランキングにおいて、ドコモはKDDIやソフトバンクの後塵(こうじん)を拝してきた。
NDVの笹原社長は「ドコモ社員は、忙しくてなかなか外を見るモードになれていない」と課題を指摘する。同社は21年度からドコモ社員などを対象にした、スタートアップのオンラインピッチイベントを週1―2回のペースで開催。オープンイノベーション促進に向け、ドコモ社内の意識醸成に取り組んでいるものの「(ドコモ)社外からの参加が多くて、なかなかドコモからの参加が少ない」という。
政府による通信料金の引き下げの影響で個人向け通信事業の収益が伸び悩む中、新規事業の拡大はドコモにとって喫緊の課題。スタートアップの力を使っていかに新規事業を拡大できるか。ドコモの社内意識の変革がカギを握りそうだ。