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オープンイノベ推進、第一三共が示した画像AI解析の効果

AI・ロボットで変わる創薬現場 #02
オープンイノベ推進、第一三共が示した画像AI解析の効果

AIによる蛍光多重免疫染色画像の解析例。核が重なり、人手による従来法では困難なケースでもAI認識で正確な分離が可能に(第一三共提供)

国内外連携で新技術創出

創薬分野で早くからスタートアップと連携してきた第一三共。真鍋淳社長兼最高経営責任者(CEO)は4月に開かれた「国際医薬品開発展」の基調講演で、人工知能(AI)による画像解析の進展について公表した。医療AIのエルピクセル(東京都千代田区)との共同研究の成果だ。

同社とは2018年から組み、最近、蛍光色素を付けた染色用抗体を用いてがん細胞や免疫細胞などに発現する複数の分子を同時に検出する「蛍光多重免疫染色」画像の解析をAIで自動化することに成功した。これまで熟練者が解析ソフトで行っていた十数時間の作業を1、2時間に短縮できると見込む。

対象は薬物をがん細胞に直接届ける抗体薬物複合体(ADC)の標的分子に加え、今後は遺伝子治療などにも画像AI解析を活用していく考え。「博士号を持つ生物学者とAIエンジニアが多数在籍するエルピクセルとの提携により、研究が大幅に加速する」(第一三共)と期待する。

低分子領域では19年から、エクサウィザーズ(東京都港区)とAIを使ったデータ駆動型創薬を試みる。京都大学や理化学研究所とも連携し「データ解析に体系的に取り組むことで約20%効率化できる」と第一三共RDノバーレの小野祥正DX創薬部長は見通す。人間には発見できない新たな薬の種が見つかる可能性もある。

第一三共が国内外の企業と積極的なオープンイノベーションを進めるのは、連携による新たな技術の創出に加え、同社の研究者がそこから多くの学びを得られるため。優れたAIを導入しても、その結果を解釈できる人材がいなければ研究の発展にはつながらない。

ただ、優秀な人材の獲得競争は激しく、社内のAI研究者は不足している。「(生物学と情報学を融合した)バイオインフォマティクスはすでに研究に必要不可欠なスキルであり、その上で多様な分野について深い知識を持つビジネスアナリストが求められる」(小野部長)という。

日刊工業新聞2022年8月15日

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AI・ロボットで変わる創薬現場
AI・ロボットで変わる創薬現場
新薬をつくる創薬の研究現場で人工知能(AI)やロボットの導入が進んでいます。医薬品の開発には十数年の期間を要し、その難易度やコストは上昇の一途をたどります。こうした中、国内の製薬大手はデジタル技術をどう活用し、創薬の成功率を高めていくのか。動向を追いました。

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