トヨタ「新型クラウン」4車種で世界販売、“セダンの呪縛”から再起なるか
トヨタ自動車が旗艦ブランド「クラウン」の新型車を世界初披露した。これまでブランドを象徴してきたセダンだけでなく、セダンとスポーツ多目的車(SUV)の要素を併せ持つ「クロスオーバー」、ワゴンSUV、スポーツSUVを合わせた計4車種を展開し、世界販売に乗り出す。大胆なイメージ刷新により、67年の歴史を誇りトヨタの代名詞でもありながら、“セダンの呪縛”に苦戦してきた老舗ブランドの再起を図る。(名古屋・政年佐貴恵)
【国内仕様車の殻破る】世界40カ国・地域に投入
「何としてもクラウンの新しい時代を作らねばならない」―。16代目となる新型クラウンの投入に当たり、豊田章男トヨタ社長は固い決意と覚悟を述べる。その言葉通り、新型クラウンは歴代積み上げてきた「型」を破る複数の革新に挑んだ。
まず車型の異なる4車種を設定。併せて、長年にわたり国内仕様車としてきたが、米国、中国を中心に世界約40カ国・地域で販売する。今秋頃を皮切りに2023年にかけて順次投入し、シリーズで年20万台規模の販売を見込む。「日本の底力が詰まった新型クラウンで、世界に挑戦し『日本のクラウンここにあり』を示す」(豊田社長)。
最初に発売する「クロスオーバー」は座面を高くし視界を向上するなど、セダンとSUVの双方の特徴を併せ持つ。プラットフォーム(車台)を刷新したほか、高出力のバイポーラ型ニッケル水素電池を採用した新開発のハイブリッドシステムを採用。モーターでエンジンの出力を補い、乗り心地や走行性能を高めた。元町工場(愛知県豊田市)と堤工場(同)で生産し、月3200台の販売を目指す。このほかスポーツSUVの「スポーツ」、「セダン」、ワゴンSUVの「エステート」を発売する計画だ。
【一部改良案を否定】並行開発可能に
新型クラウンの開発は、当初計画していた一部改良の案を否定し「原点に戻ってこれからのクラウンを本気で考えないか」という、豊田社長の問いかけから始まった。背景にはセダン市場の縮小がある。「長男坊のクラウンの立場が、(ミニバンの)アルファードなどに変わってきた」(豊田社長)。ただし長年定着してきたブランドイメージもある。中型車カンパニーの中嶋裕樹カンパニー長は「固定概念を捨てる所からスタートした」と明かす。
「クラウンとは何か」を突き詰め、セダンの存在価値も議論した上で出た結論が、複数車型の展開だった。中嶋カンパニー長は「価値観は多様化している。クラウンも時代に合わせて変化してきた」と説明する。
4車種の並行開発を可能にしたのが、16年から実施しているカンパニー制と、プラットフォームなどを刷新して共通化し車の基本性能を高める活動「TNGA」だ。これらにより、各車種に応じて独自性を出す開発に集中して取り組める体制を整えたと同時に、開発効率を向上。手がける車種は4倍だが、開発費はそれを大幅に下回る規模に抑えたようだ。
豊田社長はクラウンを「変革するブランド」だと位置付ける。このため「世の中で失敗と言われるものもあったが、変革しているうちはどれも失敗ではなかったと思う」と言い切る。今回のクラウンの変革が受け入れられるかどうかは顧客次第だが、「ロングセラーが生き残る唯一の方策は、自ら変わることだ」。
歴代の全てのクラウンに乗ってきたという豊田社長。新型に乗った時に「これ、クラウンだね」という言葉が出たと明かしながら「日本の(江戸幕府の)歴史に重ね合わせれば、16代目は明治維新。クラウンで維新を起こす」と力を込める。過去からの本質的な価値を引き継ぎながら、革新的に生まれ変わった新型クラウンで舞台を世界に広げ新たな歴史に挑む。
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