コロナ禍から回復傾向の路線価、「長野県白馬村」で20%上昇の理由
国税庁が公表した2022年分(1月1日時点)の路線価によると、標準宅地の路線価(評価基準額)の全国平均値は前年比で0・5%上回り、2年ぶりに上昇した。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で路線価が下落した21年から一転、プラスに転じた。再開発やマンションなど住宅の建設着工が進んだ地方都市や、飲食や旅行などサービス業を中心に個人消費が持ち直す都市部で回復傾向がみられる。(編集委員・川瀬治)
路線価の最高額は東京都中央区銀座5丁目の文具店「鳩居堂」前で、1平方メートル当たり4224万円となり、37年連続で全国1位となった。前年比では1・1%下回り、2年連続の下落となったものの、21年の7・0%の下落と比べて、持ち直しを見せ始めている。はがき1枚当たりの面積に換算すると、約62万5000円の価格となる。
都道府県別では、標準宅地の路線価が前年に比べて上昇したのは20都道府県と、前年から13都道府県増えた。東京や埼玉、千葉、神奈川といった首都圏のほか、北海道、愛知、大阪、福岡など大都市圏、京都や沖縄など観光地の都道府県が並ぶ。上昇率はいずれも5%未満だった。最も上昇したのは北海道で前年を4・0%上回った。北海道は再開発が進み、住宅地の地価が上昇している。次いで、福岡県が3・6%上昇した。コロナ禍の影響でテレワークが普及し、都市部周辺の住宅地などの地価の上昇傾向がみられる。
一方、路線価が下落したのは秋田、茨城、栃木、群馬、新潟、山梨、福井、岐阜、三重、和歌山、鳥取、徳島、香川、愛媛、鹿児島など27県で、前年から12県減るなど、改善傾向にある。下落率が一番大きかったのは、和歌山で1・3%下回った。次いで、愛媛が1・1%下回り、群馬が1・0%下落した。このほかの24県は、いずれも下落率は1・0%未満だった。
都道府県庁所在地の都市の最高路線価は、15都市が前年を上回り、16都市が下回った。横ばいは16都市だった。都道府県庁所在地の都市の最高路線価で、上昇率が一番大きかったのは千葉市中央区富士見2丁目の千葉駅前大通りで、前年比5・1%上昇と21年の3・5%上昇から上昇幅が拡大した。JR千葉駅周辺は再開発が進んでいることなどを背景に地価が上昇傾向にある。
【観光地「明暗」】別荘地、テレワークで需要増
都内では、外国人観光客に人気のある東京「下町」の東京都台東区浅草1丁目の雷門通りが、前年に比べて1・1%上昇した。コロナ禍の影響で11・9%下落した21年からプラスに転じた。インバウンド(訪日外国人)は本格的な受け入れ再開には至っていないが、国内の観光客を中心に個人消費が戻りつつある。一方、コロナ禍前にはインバウンドでにぎわった大阪の繁華街「ミナミ」の大阪市中央区の心斎橋筋2丁目が前年を10・6%下回った。税務署別の最高路線価では、最大の下落幅となった。21年の26・4%の下落からは改善しているものの、地価の下落が続く。観光地でも明暗が分かれた格好だ。
税務署別の最高路線価で上昇率が最も高かったのは「別荘地」がある長野県白馬村。白馬村北城の村道和田野線が20・0%上昇した。コロナ禍でテレワークが進み、「セカンドハウス」として住宅を購入するなど、首都圏から移住する人が増えているとみられる。
地方では都市の再開発やマンションの建設が進むなど住宅地や商業地の地価が上昇傾向にある。北海道では札幌市厚別区厚別中央2条5丁目の新札幌駅前通りが13・5%上昇したほか、福岡では福岡市早良区西新4丁目の明治通りが14・8%、同東区千早4丁目の千早並木通りが12・0%それぞれ上昇した。
路線価は、国税庁が全国の主な道路に面した約32万3000地点について、1平方メートル当たりの評価額を算定したもの。相続税や贈与税を計算する際の基準になる。1月1日時点を評価時点として地価変動を考慮し、国土交通省が土地取引の指標として公表する公示地価の8割を目安に、売買事例や不動産鑑定士の意見などを参考にして国税庁が算出している。標準宅地の評価基準額の対前年変動率の平均値は、約31万7000地点の標準宅地を対象に算出している。
20年分は新型コロナウイルス感染症拡大の影響などによって時価が大幅に下落したため、時価の動向に応じて路線価に一定の調整率をかけて減額補正する措置を行った。21年分は大幅な下落がなかったため減額補正は行わなかった。22年分も現時点では、減額補正を行う予定はない。