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コロナ禍で6年ぶりに下落した路線価。それでも上昇した地方都市は?【都道府県の変動率一覧】

コロナ禍で6年ぶりに下落した路線価。それでも上昇した地方都市は?【都道府県の変動率一覧】

36年全国で連続1位の東京・銀座の鳩居堂前も9年ぶりに下落した(1日=東京都中央区銀座)

国税庁が1日公表した2021年分(1月1日時点)の路線価によると、標準宅地の路線価(評価基準額)の全国平均値は前年比で0・5%下回り、6年ぶりに下落した。新型コロナウイルス感染拡大の影響でインバウンド(訪日外国人)需要が減少し、観光地や繁華街などの路線価が下落した。一方、地域の拠点となる駅前の再開発が進むなど、地方では路線価が上昇している地域もある。(編集委員・川瀬治)

路線価の最高額は東京都中央区銀座5丁目の文具店「鳩居堂」前で、1平方メートル当たり4272万円となり、36年連続で全国1位となった。ただ、前年比で7・0%下回り、9年ぶりの下落となった。

都道府県別では、39都府県が下落した。下落率はいずれも5%未満で、下落率が一番高いのは静岡で1・6%、次いで岐阜と愛媛が1・4%、石川と鳥取、徳島が1・3%などとなった。東京や大阪、愛知、神奈川、埼玉などの13都府県がマイナスに転じた。東京は1・1%のマイナスで、リーマン・ショックの影響を受けていた13年以来、8年ぶりの下落となった。大阪も0・9%のマイナスだった。山形は横ばい。前年に比べて7道県が上昇した。上昇率が一番大きいのは福岡の1・8%で、次いで沖縄の1・6%、宮城の1・4%などとなった。

都道府県庁所在地の都市の最高路線価は、22都市が前年を下回った。横ばいは17都市。上昇したのは8都市だった。都道府県庁所在地の都市の最高路線価で、下落率が一番大きかったのは奈良市東向中町の大宮通りで、12・5%だった。大宮通りは国際観光都市「奈良」のメーンストリートで、観光客の減少が響いた。

都内では、外国人観光客に人気のある東京都台東区浅草1丁目の雷門通りで、前年に比べて11・9%下回った。関西では大阪市中央区の心斎橋筋が前年を26・4%下回った。

東京五輪・パラリンピックを控え、観光地や繁華街を中心に、地価は上昇傾向にあったが、コロナ禍で需要が落ち込み、地価が下落した。

一方、地方では拠点となる地域で再開発が進む。仙台市青葉区中央1丁目の青葉通りは前年を3・8%上回った。札幌市中央区北5条西3丁目の札幌停車場線通りで2・8%上昇している。

路線価は、国税庁が全国の主な道路に面した約32万5000地点について、1平方メートル当たりの評価額を算定したもの。相続税や贈与税を計算する際の基準になる。国土交通省が土地取引の指標として公表する公示地価の8割を目安に、売買事例や不動産鑑定士の意見などを参考にして国税庁が算出している。

国税庁は20年分と同様、新型コロナ感染拡大の影響などによって時価が大幅に下落した場合に備え、時価の動向に応じて路線価に一定の調整率をかけて減額修正する措置を検討している。再調査は、時価の下落幅や、納税者への影響などを考慮し判断することになる。

【私はこう見る】地価に下押し圧力リスクも ニッセイ基礎研究所准主任研究員・渡辺布味子氏

今回の路線価をみると、新型コロナウイルスの影響を受けた地域とそれほど影響を受けていない地域との差が顕著になった。コロナ禍でインバウンド(訪日外国人)の減少が響き、反動で観光地や繁華街の地価が落ち込んだ。一方で、地方では底堅い需要もある。コロナ禍でも堅調なIT企業や通信販売業が立地する福岡や再開発が進む札幌、仙台などでは地価が上昇している。

リーマン・ショック後と現在のコロナ禍での大きな違いは金融市場だ。現在は金融緩和の状況で、不動産を購入するための融資は比較的受けやすくなっている。ただ今後、金融引き締めの状況になれば、資金面で不動産取引が鈍り、地価に下押し圧力がかかってくるリスクもある。(談)

日刊工業新聞2021年7月2日

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