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テレワーク制度見直しも…コロナ禍2年、製造業で浮き彫りになったデメリット

コロナ禍が2020年春に日本で深刻化してから2年あまり。働き方に変化をもたらしたのが、テレワークだ。実際のモノを取り扱う機会が多く、適用できない業務を抱える製造業でも各社が工夫を凝らしメリットを享受する。一方、デメリットも浮き彫りになり、新型コロナウイルス感染症拡大が一定の落ち着きを見せる中、制度を見直す動きも出てきた。テレワークとどう向き合うか。製造業各社は自社に合わせた最適解を探る。

工夫凝らし運用円滑化 社員の動き見える化

コロナ禍は製造業でテレワークが浸透する契機となった。日立金属は、政府の最初の緊急事態宣言と同じ20年4月ごろにテレワークを本格始動した。キヤノンも20年9月にテレワークを正式に制度化した。大和ハウス工業は数年前から設計部門の育児中の社員を対象にテレワークを導入していたが、20年3月から対象を全社に拡大。現在、利用率は40%で「一定の浸透が見られる」(大和ハウス)と評価する。

テレワークによる業務の生産性向上や運用の円滑化を目指し、各社は工夫を凝らしてきた。日産自動車は開発部署でも業務の特性に応じてテレワークを実施している。CADでの設計業務などで仮想私設網(VPN)やクラウド環境などの能力増強を図り、セキュリティー面でも「万全の対策を講じた」(日産)という。

またアルプスアルパインは社員の動きを見える化するため、表計算ソフト「エクセル」で作ったスケジュール表に、2週間程度先までの予定を記入。各部のマネージャー(課長に相当)が管理する仕組みをつくった。

こうした取り組みの結果、通勤時間の短縮といった単純なメリットに加え、「1人で完結する業務では生産性の維持や向上が見られる」(帝人)、「デジタルツールを活用した拠点間コミュニケーションの文化ができた」(DMG森精機)といった効果を評価する声が上がる。

制度見直し、出社回帰も オフィスでの対話活発化へ 机の配置・内装など工夫

課題もある。異口同音に上がるのは、コミュニケーションに関する問題。「対面での会話や議論を通じたアイデアの創出がしづらい」(ニコン)、「ブレーンストーミングや若手育成といった業務で効果が落ちる」(帝人)といった指摘だ。

この問題の解決に当たり1オン1ミーティングを積極化する企業が多い。また出社時に対話が生まれやすいようオフィス環境を見直す動きもある。三菱ケミカルホールディングスグループ(HDG)は机の配置や内装を工夫したエリアを設けた。日本触媒はフリーアドレス制の運用を一部オフィスで始めた。

テレワークの問題として、担当業務による不均衡を指摘する声も目立つ。三菱ケミカルHDGは「本社勤務者に比べ、工場勤務者はほぼテレワークができない。工場と折り合いを付けることが重要」との認識を示す。日立製作所は「出社を必要とする従業員の働き方の選択肢を拡充する検討が必要」と説明。ヤンマーも「在宅勤務が困難な職種に対し働き方の選択肢を増やす」とする。

コロナ禍の2年間でのテレワークで少なからぬデメリットが浮き彫りになり、ウィズ・コロナも進む中でテレワークを見直す動きが出ている。

ホンダは5月の大型連休以降、段階的に出社を基本にした働き方に切り替えている。20年4月以降、全国の事業所で原則在宅勤務としていたが方向転換した。現在も育児や介護を目的とするケースなどで在宅勤務を認めているが、「三現主義(現場、現実、現物を重視する姿勢)で物事の本質を考え、更なる進化を生み出すため」(ホンダ)として出社・対面を重要視する。

DMG森精機は15年ころに在宅勤務制度を一部導入した。さらにコロナ禍で特定の拠点の勤務者に対し、出社が困難な場合は在宅勤務とした。しかし現在は、ほぼ全員出勤している状況だ。同社は「今後も必要性と状況に応じて、出勤・在宅勤務を組み合わせて柔軟に対応する」とする。

また帝人は「感染リスク低減の観点からテレワークを推奨してきた。しかし今後はアフター(ウィズ)・コロナへの状況を踏まえた出社方針を検討する必要がある」とする。三菱重工業も「自社の特性を踏まえアフター・コロナを見据えた働き方を検討する」方針。トヨタ自動車は今後も在宅勤務と出社の両方を選択肢として用意し高い生産性と働きやすさの両立を模索する。 

産業界で浸透も課題抱える

総務省が5月に発表した「通信利用動向調査」(21年8月末時点)で、テレワークを導入したと答えた企業が51・9%となり、初めて5割を超えた。産業別では情報通信の97・7%に対し、製造業は60・1%だった。同調査は従業員100人以上の2396社から回答を得た。一方、帝国データバンクが2月に実施した調査(有効回答企業数1837社)では31・5%の企業がテレワークを実施しているが、そのうち52・1%がデメリットの方が多いと感じていることが分かった。

産業界でテレワークが浸透しつつも、課題を抱える企業が少なくないのが実態と言えそうだ。

日刊工業新聞2022年6月23日

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