「クレイ型リチウムイオン蓄電池」量産ラインで生かす、京セラのAI活用法
京セラは人工知能(AI)技術やロボット活用による生産性倍増に取り組む。早期に年2万台の生産能力を目指す同社初のスマートファクトリーは、滋賀野洲工場(滋賀県野洲市)内のクレイ型リチウムイオン蓄電池を量産するラインだ。従来、製品不良の原因を技術者の経験などを頼りに探ってきたが、同電池など新たな製品製造ラインでは、データサイエンティストが現場と共に歩留まり改善に取り組んでいる。
京セラのクレイ型蓄電池「エネレッツァ」は、2020年に生産を開始。電極材料が電解液を練り込んだ粘土状の半固体リチウムイオン蓄電池で、電解液を満たした従来の液系電池に比べ安全性が高い。電極の厚さを従来比3―5倍にでき、製造プロセスを簡素化できるのが特徴。定置型蓄電池として販売を始めており、脱炭素化の潮流で引き合いが多い期待の電池だ。
同電池の製造ラインでは、現場のエンジニアとデータ解析チームメンバー7人が一緒になって各設備のAIモデルを作り、歩留まり改善方法や不良の要因を突き止めることに活用している。例えば、箔(はく)の表面にスラリーと呼ばれる液体と固体粒子の懸濁液を均一に塗工する工程がある。その際の“欠け”など、うまく塗工できないと不良の原因となるが、データ解析により、この課題を解決した。
従来は現場の技術者が当該工程の設備データをもとに原因を想定してきた。同解析チームは「1工程だけでなくそれより前工程のデータを含め解析することで、うまく製造できる変数(材料スペック、設備の設定値など)の組み合わせを導き出せる」(松本浩征デジタルビジネス推進本部データサイエンス部)として、混練など前工程の設備でも同様のデータ解析を行い、今回の場合は材料のスペックを見直すことなどで課題解決につなげた。
京セラでは新しい製品だけでなく、セラミック部品など従来製品にも同様のデータ解析を導入し、全社的な生産性向上につなげる。焼くと縮むセラミックの性質を鑑み、焼き上がりを規定の寸法に近づける最適な原材料割合、周囲の温湿度、焼成温度設定など、未来を予測した前工程の製造条件決めなどにAI技術の活用を始めた。
データサイエンティストの社内育成も行い取り組みを加速させる。感覚に頼る製造から「データの重要性を現場が認識できる文化を根付かせることが、技術継承につながる」(土器手亘執行役員)。京セラの改革は続く。(大阪・大原佑美子)