【ディープテックを追え】超音波でがん治療、HIFUとは?
全てのがんの中で5年後生存率が低いとして知られる膵臓がん。初期での発見が難しく、有効な抗がん剤が少ないなど、治療が難しいとされる。そんな常識を覆すべく、ソニア・セラピューティクス(東京都新宿区)は、超音波を使ったHIFU(ハイフ)治療の実用化を目指している。
同社が開発する「集束超音波治療」装置は超音波を多点照射して、対象のがんを加熱、壊死させるものだ。超音波の特性を生かし、低侵襲の治療を実現し、患者の負担を減らす。
この装置の源流は、東京女子医科大学や東京医科大学などが産学共同で取り組んだ日本医療研究開発機構(AMED)のプロジェクトにある。同プロジェクトでは臨床用の装置を開発し、治験も行った。「あとは実用化するだけ。例えるならPK戦のようなもの」と岡本淳最高執行責任者(COO)は当時を話す。
ただ、実用化に向けた動きは鈍かった。そこで東京女子医大の特任准教授(当時)だった岡本COOらは起業に向けて、ベンチャーキャピタルが主催するピッチイベントに参加。そこで佐藤亨最高経営責任者(CEO)と出会い、ソニア・セラピューティクスを創業した。佐藤CEOは「臨床のデータを見た時に実用化できると直感した」と振り返る。
他の臓器に囲まれ、呼吸によって動く膵臓は、放射線のように周囲に影響を及ぼす治療方法は使えない。抗がん剤治療についても薬剤が留まりにくく、強い薬を使うため、患者への負担が大きいとされる。そのため膵臓がんは、ほかのがんに比べ5年後生存率が低くなっていた。超音波であれば、こういった副作用を避けつつ治療を行うことができる。
すでに中国製の超音波装置は存在するが、同社は医療機器承認を目指し、機能を追加する。一つがイメージング技術だ。超音波装置は治療のために使う超音波によって、治療箇所が見えづらくなる。同社はこの超音波干渉を低減。手術中の視野を確保しやすくする。もう一つが気泡の活用だ。超音波を照射している箇所を気泡で表示し、呼吸によって動く膵臓に対応する。気泡を使うことで加熱効率を高められる利点もある。これらの機能をベッド二つ分のサイズに収めて製品化する。
2021年には5億3000万円の資金調達を実施。同装置は26年の販売を目指す。今後、がんの切除が難しい患者を対象に有効性や安全性の治験を行う予定。初めは膵臓がんを対象にするが、そのほかのがんでの応用も視野に入れる。また装置と超音波と反応する物質を組み合わせて、加熱や治療効率を高める施術も構想する。そのために佐藤CEOは「治療機器として臨床的意義を結果で示す」と意気込む。
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