研究開発で稼ぐ産総研、外部人材育成の器に

連載・変わる産総研#05

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イノベーションスクール。講演者は加藤理事(産総研提供)

2030年の産業技術総合研究所は多様な人材と機能を備えた研究組織になっているだろう。技術営業や研究企画、シンクタンクなど、研究機能に加えて研究開発で稼ぐための機能が必要だ。これを支えるのは外部からの人材になる。

「イノベーションコーディネーター(IC)の5年間は自分の人生で最も幸せな期間だった」と渡利広司執行役員は振り返る。ICは産総研のシーズを企業に橋渡しする技術営業を担うために設けられた。約200人のICが活動する。だが近年は産総研の技術の売り込みはせず、企業の課題を解く活動に集中している。

渡利執行役員は「ソリューション提案が今の形。この5年間、意識改革とトレーニングを進めてきた」と振り返る。企業からの信頼がなければ始まらないためだ。結果として20年度の技術相談件数は1628件、技術コンサルティングは608件、共同研究は1283件に上る。渡利執行役員は「技術営業は面白い。何歳になっても自らの頭で勝負できる仕事」と説明する。今後、外部から迎える人材にICの面白さは伝わるだろうか。研究企画やシンクタンク機能も含めて、人材を送り出す企業への利点も明示する必要がある。

利点はある。産総研では所外の人材育成としてイノベーションスクールとデザインスクールを開いてきた。修了生は約600人。共創型のリーダーを育成してきた。加藤一実理事は「複雑な社会課題は一個人の力では解けない。多様な人と考え、解法を探す必要がある」と説明する。この方法論を実践しながら学ぶカリキュラムを提供する。

産総研は多分野の融合研究を推進しながら、その方法論を学び、社会実装まで一貫して実践できる人材育成の器になる。企業の研究職や企画職にとっては自社ではまかなえない技術領域に手を伸ばし、国の研究開発事業をテコに社会を巻き込むことも視野に入る。

日本では大企業であっても1社単独で生存戦略を描ける会社はほぼなくなった。事業の浮沈が国の産業政策と連動し、その実行力としての技術力が求められている。産総研は外に向けて大きく変わる。その組織作りも人材獲得も現在進行中だ。イノベーション・エコシステムの中核を作るチャンスは開かれている。(おわり。小寺貴之が担当しました):

日刊工業新聞2022年4月1日

COMMENT

小寺貴之
編集局科学技術部
記者

「うちの会社でくすぶってるなら、産総研でイノベーションでも起こしてくるか?」。こんな風に若手に経験を積ませる場所に産総研がなるかもしれません。若いうちに社外の世界を勉強して、産総研には民間のスピード感をもちこんで、イノベーションが成功してもしなくても組織間でウィンウィンにはなりそうな気がします。材料や環境、エネルギー分野は事業の息が長いので、ITなどの産業技術分野のスピード感を体験するなど異分野に挑戦する機会にもなりそうです。社員が自分のツテで副業先を探させるより、組織対組織で機密情報を管理できる環境で社会課題に挑戦する方が安心できる気がします。成熟したAI技術で材料開発を革新するなど、異分野の成熟技術で別分野の先端領域を切り開く融合研究が増えています。研究者の二足目のわらじとしても産総研は面白いのではないかと思います。

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