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2.5兆円の巨大市場、「熱電発電モジュール」開発プロジェクトの今

IoT(モノのインターネット)センサーの独立電源などに用いる革新的熱電変換技術の開発を、科学技術振興機構(JST)「未来社会創造事業大規模プロジェクト型」で2019年から進めており、いよいよ企業参画フェーズに入る。

Society5.0では1兆個のセンサーが必要とされており、バッテリー交換なしに作動する「熱電発電モジュール」の実用化が期待されている。産業創出の点でも、仮にボタン電池と同等の価格50円で独立電源装置シェア5%を取れたと低く見積もっても、2・5兆円の巨大市場となる。こうした未来を描きつつ、22年9月には新規参画企業を含むプロジェクト後半の初期体制が組み上がる予定である。

本プロジェクトは筆者が代表を務め、前半は物質・材料研究機構(NIMS)、産業技術総合研究所筑波大学東京大学東京理科大学、豊田工業大学、九州工業大学といった国研・大学を中心とする総勢11グループ体制だった。熱電発電の産業化に必要な高性能材料から熱管理技術やデバイス作製技術に至るまで、新規産業の礎となる要素技術を総合的に開発してきた。

取り組んできた課題は大きく三つある。一つ目は材料開発である。チャンピオン材料のビスマステルライドは、プラチナより希少で価格・供給面に大きなリスクを抱えるテルルを主成分とし、発電用途では普及しなかった。本プロジェクトでは、資源が豊富なマグネシウムアンチモン系やその他各種の高性能材料を実現した。半世紀以上にわたるビスマステルライドの最高性能記録に匹敵する成果であり、さらなる高性能化やモジュール化も目指している。

二つ目は作製プロセス開発である。従来の熱電発電モジュールには製造コスト高や形状的制約の問題があった。その克服のため、薄膜型・フレキシブルシート型・バルク型と多彩なモジュール形状ニーズに対応し、安価に大量生産できるプロセス開発に取り組んでいる。

三つ目は熱管理システムの開発である。熱電発電モジュールの総合的な熱管理に向け、簡易に冷却できる技術、高度な熱伝導評価、熱管理シミュレーション技術の開発も進めている。

以上のように、NIMSを軸としたドリームチームによる大規模プロジェクトを、かつてないほどの総力を結集し進めている。過去200年間実現できなかった熱電発電の本格普及に初めて近づいた。今後、材料からサービスプロバイダーに至るまで、熱電発電の実用化に興味を持つさまざまな企業に参画いただき、一緒に新規産業創出を実現したい。 

◇物質・材料研究機構(NIMS) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 グループリーダー 森孝雄

1996年東京大学理学系研究科物理学専攻博士課程修了、博士(理学)。98年無機材質研究所(現NIMS)入所。11年より現職。12年より筑波大学連携大学院併任、現教授。

日刊工業新聞2022年2月2日

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