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見直し決定の「四半期開示」、影の主役は関経連だった

見直し決定の「四半期開示」、影の主役は関経連だった

新しい資本主義実現会議で発言する岸田首相(2021年10月、首相官邸)

岸田文雄首相の看板政策である「新しい資本主義」。世界にまん延した英米型金融資本主義からの脱却を目指し、日本型の資本主義を確立するという壮大なる実験ながら、ようやくその第一歩が踏み出される。四半期開示の見直しだ。政府は法律に基づく「四半期報告書」を廃止し、証券取引所が定める「四半期決算短信」に一本化することで調整に入った。5月中にも開かれる金融審議会で正式決定する予定だが、なぜ今、制度見直しに至ったのか-。政府と産業界のせめぎ合いの中、岸田首相と関西経済連合会のタッグが岩盤規制に風穴をあけた。

2月に開かれた金融庁の作業部会。委員からは四半期開示の見直しに否定的な意見が相次いだ。特に金融商品取引法で定める四半期報告書の廃止に対しては「法定開示として維持すべきだ」との声が大半を占め、昨年10月の岸田首相誕生で、にわかに盛り上がった四半期開示見直しの機運は急速にしぼんだ。

長年、制度見直しを求めてきた産業界。今回の金融庁の議論に際し、期待感が膨らんだ半面で一部ではあきらめもささやかれた。その理由は、方向性を打ち出す金融庁の作業部会のメンバー構成。市場関係者や大学教授、弁護士を中心に構成されているが、その半数は前回(2018年)と同じメンバーだ。18年の議論で導き出された結論は「制度の見直しはしない」。「岸田首相のかけ声とは裏腹に、今回も大きな見直しは期待できない」(財界筋)というため息が聞こえていた。

外堀を埋められたかと思えた制度見直しの議論。なぜ事態が動いたのか。財界、特に関経連の精力的な動きが奏功した。流れが大きく変わったのは3月15日朝に開かれた自民党の「金融調査会・企業会計に関する小委員会」。金融庁、投資家代表に加え、講師として参加したのが関経連の松本正義会長だ。関係者によれば、松本会長は「過度な株主偏重の経営は企業の中・長期的な成長を阻害する」との持論を展開。市場や投資家との対話を通じた企業価値向上や適切な情報開示は重要との前提を示しながらも、「短期的利益志向を助長しかねず、企業に多大な負担をかけ、かつ投資家などの活用度が低い四半期開示は義務付けを廃止すべきだ」と熱く訴え、多くの議員らの支持を取り付けたと言われている。

それからおよそ1カ月、関経連はさまざまな仕掛けを講じ始める。4月5日には異例とも言える四半期開示制度の義務付け廃止を求める提言を再度公表、9日には大阪入りしていた岸田首相と松本会長ら関経連幹部が夕食を共にしている。会話の内容は定かではないが、「当然、四半期開示の見直しを直接、首相に迫ったはず」(ある関係者)。岸田首相と財界の強力タッグを前に、もともと開示制度見直しに後ろ向きであった金融庁も、「首相の指示ともなれば、白旗を上げざるを得ない」(同)。

その結果、12日に非公開で開かれた新しい資本主義実現会議の席上、鈴木俊一財務相兼金融担当相が四半期報告書の廃止と四半期決算短信への一本化表明に至っている。松本会長を中心とした関経連の巻き返しが今回の見直しにおける最大のポイントになった。

関西経済連合会の松本会長

「今回の決定はベストではないが、日本型資本主義を模索していく上で大きな一歩になる」と関経連幹部は胸を張る。確かに関経連をはじめとする産業界が求めてきた「四半期開示の義務づけ廃止」には至らなかった。ただ劣勢の議論の中、松本会長の発信力や足しげく関係者を訪ね、見直しの機運を高めた関経連事務局など産業界による愚直な取り組みが今回の見直しに一役買ったのは確かだ。

経済の主役である産業界が自ら制度を変える-。新しい資本主義の実現に向け、今、号砲が鳴らされた。

日刊工業新聞2022年5月7日

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