迫るプライム市場企業の環境リスク開示、「放置」はビジネスで命取りに
市場再編が4月に迫る東京証券取引所。最上位のプライム市場の企業にとって見逃してはいけない新たな開示義務がある。地球温暖化による経営リスクや環境対策などだ。開示内容は、主要国の金融当局でつくる「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の指針がベースで、特に面倒などが二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量。TCFDでは自社工場だけでなく、サプライチェーン全体の排出量の開示も促しており、調達先の多いメーカーなどはリスク分析に手間がかかる。企業の環境部門やIR(投資家情報)は、制度の理解を早急に進めてなければならない。
プライム市場企業は実質義務づけとなり、さらに金融庁では23年にも有価証券報告書を出す一般企業約4000社にも対象を広げる考えだ。気候変動リスクの分析には手間と、煩雑な事務作業が発生するが、投資家にとっては「企業選別」の重要な判断になる。
先行して報告している企業も出てきているがまだごくわずかだ。重要性を認識しながらも着手できないのは、制度の理解不足に加え専門人材が不足している点にある。企業の事業部門、CSR(企業の社会的責任)やIRを含め横断的に取り組まなければならない。
温室効果ガス排出量の算出・報告は国際基準の「GHGプロトコル」に基づいている。プロトコルには自社の直接排出・間接排出を計上する範囲「スコープ1・2」と、自社の商品・サービスに関連した他社の排出を計上する範囲「スコープ3」が存在する。自社の各事業がサプライチェーンのどこに位置しているかを把握しておかなければ、顧客と取引ができなくなる可能性もある。
主要サプライヤー約200社を抱える米アップル。同社に納める製品や部材の生産に使う電力を全て再生可能エネルギーでまかなうと約束した企業が175社になった(21年10月時点)。アップルは、2030年までに製造工程だけでなく、下流の物流、デバイス利用時のエネルギーから発生する排出量も含めたカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を目指すと宣言している。
ここにきて全世界的にエネルギー供給は不透明感を増しているが、欧州を中心に気候変動リスクの開示を求める動きが後戻りすることは考えにくい。細かい開示方法は企業に委ねられており、この潮流にうまく乗れば逆にビジネスチャンスが広がり、資本市場からの資金調達にも道を開くことになるだろう。
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