商機あり!レジャーの景色変える「テック」の波
コロナ禍で落ち込んだレジャー需要に回復の兆しが出てきた。今週末から始まるゴールデンウイーク(GW)の交通機関やホテルの予約は好調に推移する。ただコロナ禍が継続する中、接触機会の低減や、ソーシャルディスタンス確保が必要な新常態は続き、そこではロボットやタッチレス端末が活躍する。テクノロジーがレジャーの景色を変え、そこに新たなビジネスチャンスが生まれつつある。(編集委員・小川淳、同・嶋田歩、高屋優理)
【GW国内線・新幹線好調】旅行機運高まる
GWの国内線や新幹線の予約が好調だ。日本航空(JAL)の国内線の総予約数(22日時点)は前年同期比約2倍の80万席で、「大変好調」(JAL)。全日本空輸(ANA)の国内線総予約数も、同約5割増の78万席とこちらも好調だ。JRグループ6社が公表した新幹線と在来線の指定席予約数も順調に伸びており、同約7割増となる。
3年ぶりとなる緊急事態宣言など行動制限が伴わないGWとあって旅行機運は高まっている。JTBでは、GW期間中に国内旅行へ出かける人は1600万人と、2021年実績比で約7割増えると推定する。
ただコロナ禍前の19年の約2400万人からはまだ約3割下回る。旅行に行かない理由として、コロナ禍が収束していないことを挙げる人は多い。
こうした不安を和らげ、安心安全の旅行を楽しんでもらおうと、観光業界は懸命になっている。ホテルや空港、駅などでソーシャルディスタンスや非接触を確保するため、ロボットやタッチレスパネル式装置、人工知能(AI)を活用した遠隔案内システム、サーモグラフィーカメラなどを導入する。
これらはポストコロナにおいても、省人化や効率化に役立つため、一部は定着していくはずだ。
【接触サービス推進】ワクチン接種履歴パスコード活用
小田急電鉄グループの小田急箱根ホールディングス(HD)では、箱根登山鉄道・箱根湯本駅でNTT東日本などと連携してコミュニケーションロボ「Sota」を用いた実証実験を続ける。駅の案内ツールとして役立っている。非対面・非接触であるため、利用者の安心感につながる。
また、品川プリンスホテル(東京都港区)では、米サビオーク製の自律走行型のデリバリーロボット「リレイ」を導入し、客室に商品などを届けるサービスを展開している。「安心安全を求める中で、非接触のサービスの需要は高い」(品川プリンスホテル)という。
一方、凸版印刷は新型コロナウイルスのワクチン接種履歴やPCR検査などの結果を一元管理できるウェブアプリケーション(応用ソフト)「PASS―CODE(パスコード)」を2021年12月から提供している。すでに登録数3万人を超えるなど好評だ。飲食店や店舗などでワクチン接種済みなどを表示すれば、利用者はインセンティブを得られるなどの使い方を想定する。
また同社では札幌市と連携し、パスコードを利用した実証実験を展開中で、「22年度も継続する予定」(凸版印刷)だという。
物語コーポレーションは、ソフトバンクロボティクス(東京都港区)の配膳・運搬ロボット「Servi(サービィ)」の導入を進める。「焼肉きんぐ」や「寿司・しゃぶしゃぶゆず庵」など310店舗を対象に443台を導入する計画だ。配膳はロボットが担い、店舗スタッフは肉の焼き方などを指南する。
また、JR東日本クロスステーション フーズカンパニーは駅構内で展開するそば店「いろり庵きらくそば」で、「そばロボット」を導入した。そばロボットはコネクテッドロボティクスが開発し、2本のアームで生そばの投入し、茹でて洗い、締めるという一連の調理工程を完全自動化する。
新型コロナウイルス感染拡大で非接触のニーズが高まっていることから、導入を進め、26年までに30店への導入を目指す。
【宿泊施設・飲食店でロボ導入】総菜盛り付け実用化
コロナ禍での接触機会低減などの需要の高まりに加え、以前からの人手不足問題もあり、宿泊施設や飲食店でロボット導入が広がっている。富士経済(東京都中央区)によるとオフィス・店舗用の業務・サービスロボットの世界市場は、25年に20年比2・1倍の720億円に伸びる見込みで、ロボットメーカーには商機が広がる。
宿泊施設や飲食店に向けたロボット開発では最近、総菜盛り付けロボットが視線を集める。コネクテッドロボティクス(東京都小金井市)や、テックマジック(東京都江東区)、アールティ(東京都台東区)が取り組んでおり、実際に完成に至った製品もある。だが実用化には残された課題も多い。
総菜ロボはそばゆでロボット、ビールサーバーロボットに比べて難易度が高い。基本的に形状が同じである液体や麺類に対し、総菜はポテトサラダやコロッケ、ハムなど多種多様。品数や盛り付け様式、盛り付ける分量なども変わるため、人間の作業者なら柔軟対応できても、ロボットの場合は難しい。ロボットが得意とするのは定形の長時間作業だからだ。
コネクテッドロボが開発した製品は、ポテトサラダとマカロニサラダに対応する。1人前の小サイズからファミリー向け大サイズまでタッチパネルの操作で変更できる。1時間で1000食つくる能力があり、ほぼ人間1人分だ。
テックマジックの製品は粘着性の高いポテサラを高精度で盛り付けられる。
両社の製品ともに価格はいずれも1000万円近いと見られる。普及拡大に向け500万円以下の実現が課題となる。
客が外食や総菜の商品を見る目は厳しい。サーブされたサラダの盛り付けが乱れているなど、些細なミスで“不合格”になるケースもある。アールティでは、価格を200円に抑える代わりに、具材を2、3品に減らした「省力化弁当」をロボットが作る取り組みを試験的に実施したものの、客の品質要求にコストが追いつかず、中止した経緯がある。小さいミスを人がどこまで許容するかも、総菜ロボットの普及のカギを握る。
非対面化などコロナ後も継続/JTB総合研究所研究員・臼井香苗氏
コロナ禍に普及した観光分野での非接触・ソーシャルディタンスを保つ技術としては、キャッシュレス化や非対面化、レストランや入浴施設の混雑状況の見える化などがある。以前から存在していたが、コロナ禍が普及の後押しとなった。効率性や安全性に加え、観光地の消費額や人流の把握などにデータを利活用できたり、旅行者の快適性につなげたりできるため、コロナ後も継続されるだろう。
地域アプリは観光情報だけではなく、緊急時には避難先や災害情報の提供でも活用できる。今回のような感染症が発生した場合、感染者の行動追跡や医療機関の紹介などにもサービスを拡大できると思われる。
仮想現実(VR)やオンラインの観光体験が増えたことは、旅行前の事前の情報習得や、高齢者や障がい者を含むすべての方が旅を楽しむ選択肢を増やした。さらに天候不順で体験活動を中止にした場合にVRなどで補ったりなど、サステナブルな観光にも寄与する。