日産は「アリア」でEV先駆者の面目躍如なるか、記者が体感した進化
日産自動車は5月12日に新型電気自動車(EV)「アリア」の標準車を発売する。2010年末に世界に先駆け量産型EV「リーフ」を販売した同社はEVの先駆者を自負する。リーフ以来の新型EVとなるアリアでは初めてEV専用プラットフォーム(車台)を開発し、これまで培ったノウハウを織り込んだ。初代EVからの進化を体感するため記者がアリアに試乗した。(西沢亮)
日産は4月中旬に東京都大田区の羽田空港周辺でアリアの報道機関向け試乗会を開いた。記者が乗車したのは電池容量が66キロワット時で2輪駆動(2WD)の主力グレード「B6」。ドアを閉めまず感じたのは車内の開放感だ。中型スポーツ多目的車(SUV)のアリアは車の大きさで「Cセグメント」に位置付けられる。同じセグメントで同社の量販SUV「エクストレイル」と比べ全長と全高がそれぞれ95ミリ、65ミリメートル短い。一回り小さいアリアでエクストレイルより広い車内を実現した一因にEV専用車台「CMF―EV」がある。
専用車台では駆動装置(パワートレーン)の小型化で空調ユニットを前方のモーター室内に配置。運転席と助手席を隔てるように設置していた同ユニットがなくなり、前席の足元にはぜいたくなほどの空間が広がる。
車の床下に配置する電池では、強度向上のため車台の横方向に設ける骨格部品を内蔵する一体構造を採用した。ねじり剛性を高めつつ、部品の内蔵で実現した全面平らな床面が、車内の高さ方向の開放感を演出する。中嶋光車両開発主管は「アリアでは一回り大きいDセグメントの車内空間を実現した」と強調する。
走りの面ではアクセルを踏み込むと滑らかに加速。緻密な駆動制御や吸音・遮音構造でモーターと車外の音を抑制し、高い静粛性も実現した。車内の開放感と静かさの中で流れる車窓の景色を見ていると、振動の少ない高速列車に乗車しているような感覚を覚えた。
電池は最大手の中国・寧徳時代新能源科技(CATL)製を採用し、量産効果を高めた。一方、電池周辺に冷却水と温水を循環する温調システムを導入し、常に電池を30度C前後に維持。長距離走行で電池温度が40度Cを超える場合や、0度Cを下回るような寒冷地でも最高の急速充電性能を確保し、使い勝手を高めた。
中嶋氏は同じメーカーから同じ電池を調達しても「商品の特性に合わせて温度を緻密に管理するなど、電池の性能をどこまで引き出せるかは完成車メーカーのノウハウに左右される」とし、これまで蓄積したEV技術に自信を示す。
日産が開発を主導したCMF―EVは、連合を組む仏ルノーや三菱自動車も採用を決定。30年までに連合で投入予定の35車種のEVのうち15車種以上で同車台を採用し、年150万台の生産を見込む。先陣を切るアリアの売れ行きは、連合のEV戦略をも占うことになりそうだ。