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財務体質が改善している太平洋セメント、残された課題

太平洋セメントの財務体質が改善している。セメントの内需が縮小する中、成長市場の米国に投資するなどして収益を拡大しており、2017年3月期以降の純負債資本倍率(ネットD/Eレシオ)は安全指標の目安とされる1倍以下を維持し、21年3月期には0・37倍となった。今後は、製造時に大量に使う石炭価格の高騰をいかに値上げで補うかが課題となりそうだ。

「財務体質が良くなり、成長投資に資金を振り向ける余裕が出てきた」。経理担当の朝倉秀明常務執行役員は現状をこう説明する。

同社は24年3月期までの3カ年で設備投資やM&A(合併・買収)に2800億円を投資する中期計画を推進中だ。3月に入り、290億円を投じて米国西海岸でセメント工場の買収を決定。売上高営業利益率が15%を超え、稼ぎ頭である米国事業に投資することで、収益性を高める方針だ。

900億―1000億円程度だった同社の営業キャッシュフロー(CF)は21年3月期には約1100億円を創出しており、今後3カ年で3300億円規模を見込む。2800億円の投資は「営業CFの自己資金でまかなえる」(朝倉常務執行役員)とし、成長投資に資金をつぎ込んでも財務体質が大きく痛む心配は少ない。

懸念材料は足元の石炭価格の上昇だ。1月出荷分から1トン当たり2000円の値上げを表明しているが、3月に入り石炭価格は一時同400ドル(運賃保険料込み)を超えるなど、値上げの前提となる同200ドル前後の2倍に達している。同200ドル以上が続いた場合、野村証券の河野孝臣リサーチアナリストは「利益を確保するには値上げ幅の積み増しが必要」と指摘する。

太平洋セメントは過去8年間、営業利益600億円以上を維持し、着実に稼いで借金返済をすることで財務の健全性を高めてきた。22年3月期は原材料高で同利益は520億円と、9期ぶりに600億円を下回る見込みだ。24年3月期までネットD/Eレシオ0・4倍程度を見込んでいるが、適切に値上げを進めなければ将来的に財務体質の悪化は避けられない。

日刊工業新聞2022年3月17日

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