ニュースイッチ

未開拓領域「テラヘルツ周波数」NICTは切り開けるか

未開拓領域「テラヘルツ周波数」NICTは切り開けるか

2テラヘルツ帯導波管型超電導ホットエレクトロンボロメータミキサー(NICT提供)

テラヘルツ(テラは1兆)波とは、ミリ波の一部と遠赤外線を含むおよそ100ギガヘルツ(ギガは10億)―10テラヘルツ(THz)の周波数領域の電磁波を言う。同時にこの領域は、まだ開発や利用が進んでいない“未開拓周波数領域”とも呼ばれている。

未来の大容量・高速無線通信、セキュリティー、医療、地球環境計測・電波天文など幅広い分野での応用が期待されている。しかし現状は技術開発の最中であり、特に1テラヘルツを超える周波数領域では、いまだに発振・検出という基盤技術の開発が、主たる研究課題となっている。

このような背景の下、情報通信研究機構(NICT)では新たな周波数資源として、テラヘルツ周波数領域の開拓を目指している。我々が研究開発している2テラヘルツ帯超電導ホットエレクトロンボロメータミキサ(HEBM)も、この領域を切り開く基盤技術の一つである。

HEBMは、二つの近接した金属電極を極薄の超電導薄膜ストリップで接続した構造を有し、現在、1・5テラヘルツ以上のテラヘルツ周波数領域で、最も低雑音のヘテロダイン電磁波受信機を実現している。しかしこのHEBMには、1度の処理できる情報量に相当する中間周波数(IF)帯域が、ほかの受信機より狭いという課題があった。

そこで我々は、IF帯域の拡大を実現するため、磁性材料を用いて超電導状態の発現箇所をナノレベル(ナノは10億分の1)で制御する、新たなHEBM素子構造(Ni―HEBM)を考案した。

このNi―HEBM構造は、金電極下に磁性材料であるニッケル薄膜を挿入することで、電極直下の超電導薄膜ストリップが有する超電導性を抑制し、電極間のわずか100ナノメートルの領域のみに超電導性を残すことを目的としている。

同構造によりHEBMの極微細化が実現され、その結果としてIF帯域幅は、従来の約3ギガヘルツから約6・9ギガヘルツにまで拡大した。また2テラヘルツにおける損失補正後のミキサー雑音温度も、約570K(DSB)という世界トップレベルの低雑音特性を達成している。

現在、地球環境計測や電波天文への応用を想定し、優れたアンテナビームパターン形状を有する2テラヘルツ帯導波管型Ni―HEBMの開発を進めている。

我々は未開拓のテラヘルツ周波数領域を切り開き、未来の情報通信技術への貢献を目指している。

未来ICT研究所・神戸フロンティア研究センター 超伝導ICT研究室 主任研究員 川上彰

88年郵政省通信総合研究所(現情報通信研究機構)入所。以来、ジョセフソンアレー発振器、超電導ヘテロダイン受信機、中赤外光アンテナ・分布定数回路、超電導デバイス作製技術の研究に従事。
日刊工業新聞2022年3月22日

編集部のおすすめ