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材料評価にテラヘルツ波を生かす!NICTが技術開発

材料評価にテラヘルツ波を生かす!NICTが技術開発

テラヘルツ波の周波数とコラーゲンへの吸収量の関係。測定結果(点線)と計算データ(実線)を示す。計算ではコラーゲンを模擬した3重螺旋構造を有する分子モデルを用い、各周波数の電波(エネルギー)の吸収により生じ得る異なる状態への遷移のしやすさを調べることで測定結果に対応する吸収特性を得た

光の指向性と電波の透過性を併せ持つテラヘルツ(テラは1兆)波と呼ばれる電磁波(ここでは0・1テラヘルツから10テラヘルツを指す)は、さまざまな非金属材料中を伝搬し、材料特有の吸収特性の影響を受けるため、伝搬後の波形を解析することで、材料の性質の変化などを捉えることができる。X線や光領域に比べてエネルギーが低いため、特に材料中の大きな分子の構造や、分子間の弱い相互作用の違いを感度良く調べるために利用されつつある。

情報通信研究機構(NICT)では、このような特徴を持つテラヘルツ波を用いて、さまざまな材料を評価するための技術を研究開発するとともに、生体試料の性質の違いについてコラーゲンやデオキシリボ核酸(DNA)などの分子レベルから皮膚などの組織レベルにおいて評価するための手法を検討している。

具体的には、テラヘルツ波を生体試料に照射し、試料からのテラヘルツ波の反射や内部での吸収に関する情報を取得するための測定手法を検討し、反射や吸収データの取得および数値解析などを進めている。

これまでに皮膚や角膜に関する測定を実施してきており、例えば、皮膚に含まれるコラーゲンについては、図のような分子モデルを用いて計算した結果と実測の結果を比較することによって、テラヘルツ波の吸収が複数の官能基と呼ばれる化学的な性質を与える役割を果たす原子集団の振動に関与していることがわかっている。

また、コラーゲンに熱を加えた場合には、分子構造に歪みが生じて吸収特性が変わる。その変化を利用することで、テラヘルツ波によりコラーゲンの状態を評価することが可能である。

今後、テラヘルツ波のこれらの特性と表面組織の性質との関係をさらに明確化することで、生体試料の評価手段と成り得るだけでなく、無線通信などでテラヘルツ波を安全に利用するためのガイドラインの根拠として必要な生体組織へのテラヘルツ波の吸収量を見積もるための手段としても貢献が期待できる。 

◇電磁波研究所 電磁波標準研究センター 電磁環境研究室 主任研究員 水野 麻弥  2006年大学院博士課程修了、NICTに入所。ミリ波やテラヘルツ波帯における材料評価技術などの研究開発に従事。博士(工学)。
日刊工業新聞2021年9月21日

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