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【ディープテックを追え】食品サプライチェーンを持続可能に。「誰でも」陸上養殖できる装置とは?

#70 ARK

面積9.99平方メートル、駐車場1台分のコンテナ。一見、なんの変哲も無いこの設備は「誰でも」陸上養殖ができるようにするものだ。製品を開発したARK(東京都渋谷区)の栗原洋介最高サステステナビリティー責任者(CSO)は「養殖業を含めた食品の供給網(サプライチェーン)を持続可能性があるものにしたい」と力を込める。

経験ベースの養殖産業

水産庁の「令和2年度 水産白書」によれば、世界の魚介類消費は過去半世紀で約2倍になった。海洋資源の減少から海洋漁業による生産量の横ばいが続く。需要を補うため拡大が続くのが、生産量の約半分を占めるまでになった養殖生産だ。ただ課題もある。海面養殖ではできる場所が限られる。陸上で養殖を行う場合も、生産管理を安定させる難易度は高い。また、一つの飼育法をほかの環境や施設で再現することが難しかった。栗原CSOは「養殖でのエサのタイミングや量などは経験に裏打ちされたものだ」と指摘する。

小型、省エネの製品

設置のイメージ

同社が開発するコンテナ型の閉鎖循環型養殖システム「ARK」は、センシングに水槽、自動給餌器が一体となった小型の製品だ。水温や飽和溶存酸素量などのデータを取得するだけでなく、制御機器やスマートフォンの遠隔管理アプリを使い、飼育の再現度を高める。小型装置にすることで水温などの調整をしやすくし、生産を安定性させる。また、年ごとに飼育する魚の種類を容易に変更できる可変性の高さも特徴だ。加えて自動化システムを組み込み、人件費などのランニングコストの削減にもつなげる。

水を循環させる仕組みなどを工夫することで、0.3キロワットという低消費電力で動く。省エネルギーかつ再現度を高め、地球環境と養殖産業の持続可能性に貢献する。バナメイエビの飼育に成功しており、今後飼育できる魚種を増やしていく。

設置のイメージ

すでに実証をJR東日本などと実施。2022年の夏ごろに製品の販売を始める予定だ。価格は500万円から。5年間で1000台の生産販売を計画する。稚魚や成育水、管理アプリなどは月額課金で提供する。初めは養殖した魚の消費先を確保している水産加工業などをターゲットにする。将来は街のいたるところに装置を設置し、食べるタイミングで出荷する「食品ロスゼロ」の取り組みを行いたいという。

大型の陸上養殖と協力。市場を作る

とはいえ、同社も小型の装置だけで水産養殖の課題を解決できるとは考えていない。食品のサプライチェーンは多くの流通形態が存在することで成り立つからだ。大規模な陸上養殖場は生産量やコスト面に優れる。対して、同社の小型装置は必要な量を少量生産することにたけ、目的に応じて使い分けることを想定する。栗原CSOも「自動車で言えば、バスやトラック、普通車など種類がある。いろいろな種類があることが大事だ。そのためにお互い協力して陸上養殖の市場を作っていきたい」と説明する。将来は装置のハードウエアと飼育方法のソフトウエアを組み合わせ、海外への輸出も構想する。「日本の一次産業は世界で戦えるポテンシャルを持っている。強みを磨いて輸出産業にしたい」と力を込める。

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小林健人
小林健人 KobayashiKento 経済部 記者
遊休地で運用できるのは特徴的です。人口増加からたんぱく質をいかに確保するかが、今後の食料生産において重要なポイントです。加えて、CO2を削減することも必要です。細胞由来のたんぱく質など、今後もさまざまな方法が試されることかと思います。テクノロジーがどこまで寄与できるか気になります。

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