「食肉は環境負荷が高い、植物肉は環境に優しい」は本当か?
植物肉は生産性が高いことが特徴の一つで、同じ面積の農地から家畜よりも多くのタンパク質を効率的に供給することが可能です。つまり、植物肉の導入により農地を節約することができることになります。
畜産物の生産には多くの餌が必要です。一般的な畜産においては、表に示すように1 kgの食肉を生産するために、牛肉で11 kg、豚肉で7 kg、鶏肉で4 kgの穀物が必要となります。このように畜産物はカロリー換算での生産効率が低く、膨大な面積の飼料生産用の農地を使用することになります。
一方、植物肉は大豆などのタンパク質をそのまま加工できるため、耕地面積当たりの生産量が高まります。大豆を例にとると、大豆肉が「大豆→大豆肉」(注:丸大豆を用いる場合と脱脂大豆を用いる場合あり)であるのに対して、食肉は「大豆→家畜→食肉」(注:実際には他の飼料も給餌)となり、家畜の飼育期間におけるエネルギー消費や非可食部(皮、骨、一部の内臓、血液など)の発生により、変換効率が大きく下がってしまっています。
世界的な人口増加と経済発展を踏まえてタンパク質需要が高まる中、それと比例して畜産が急激に拡大していくと、飼料栽培のために熱帯雨林などの伐採、農地への過度な負担、地下水の枯渇などの悪影響が起きると懸念されています。生産効率の良い植物肉の生産を拡大することで環境負荷を抑えるとともに、世界的な栄養状態の改善や 飢餓リスクの低減に貢献すると期待されています。
一方でタンパク質供給の観点から、畜産は依然として重要な役割を有しています。植物肉の原料となる農作物の多くが、栽培しやすい好条件な農地で生産されていますが、中山間地や寒冷な地域などには条件不利な農地が多数点在しています。農産物の栽培に向かないエリアを牧草地などとして活用し、放牧や平飼いによって家畜を飼育することで土地の有効活用に貢献しています。また、食品残渣(廃棄パン、野菜くず、ホエー、果実の搾りかす、焼酎かす、酒かす、売れ残り弁当、規格外農産物など)によるエコフィードを活用した資源循環型の畜産も盛んに展開されています(図)。
POINT
●植物肉は効率的にタンパク質源を供給可能
●環境負荷低減に貢献する畜産もあり、包括的な視点から食肉と植物肉のポートフォリオを構築することが重要
(「図解よくわかるフードテック入門」p.66-67より抜粋)
<書籍紹介>
人口増に伴う食糧・栄養不足への処方箋として注目集まる「フードテック」の全容と、それを支える基盤システムや要素技術、市場性をまるっと紹介。大豆ミートや食用藻類など代替素材の開発動向や、ITを駆使した生産体系を詳述。食の安心と安全を守る仕組みにも迫る。
編著者名:三輪泰史
判型:A5判
総頁数:176頁
税込み価格:2,420円
<執筆者>
三輪泰史(みわ やすふみ)
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター エクスパート
農林水産省の食料・農業・農村政策審議会委員、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)アドバイザリーボード委員長をはじめ、農林水産省、内閣府、経済産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構などの公的委員を歴任
<販売サイト>
Amazon
Rakuten ブックス
日刊工業新聞ブックストア
<目次(一部抜粋)>
第1章 脚光を浴びる次世代技術“フードテック”
第2章 フードテックを後押しする社会トレンド
第3章 次世代のタンパク源“代替肉”
第4章 新製品が続々登場する“藻類食品”
第5章 異色の新食材“昆虫食”
第6章 農産物栽培を人工的にコントロールする“植物工場”
第7章 バイオテクノロジーを駆使した“スマート育種”
第8章 消費者ニーズと環境配慮に応える“陸上養殖”
第9章 流通や加工におけるフードテックの躍進
第10章 フードテックを取り巻く政策