「対話を重ねベクトルを合わせる」。OSG会長の経営哲学
2007年の社長就任まで、延べ20年以上が海外勤務。営業も製造も知らないことだらけだったが「創業家の大沢輝秀会長も『自分で気付くのがいい』と細やかに教えてくれるタイプではなかった」という。
「まずは現地現物で、わかることを増やそう」。当時、GEのジャック・ウェルチ最高経営責任者(CEO)の逸話を聞いた。グループ企業の情報を紙1枚にまとめた“ダッシュボード”を手に世界中のグループ会社を訪問したという。その頃のOSGの子会社数はGEよりはるかに少ない約40社。自社流のダッシュボードを作成し、1年で全子会社を回りきった。
「わからなければ自分で理解できるような仕組みを作ろう」と、社内のあらゆる業務を見える化する「予算会議」を始めた。グループ企業を回り、予算会議を重ねると、労使の信頼関係や設備状態など、さまざまなことが見えてきた。翌08年春には創業70周年を盛大に祝った。しかし、その秋のリーマン・ショックで状況は一変した。
「経営は窮地に陥ったが、そういう時こそチャンスでもある。過去の成功体験が通用しなくなり、リセットが起きたことで新しいやり方を一気に浸透させることができる」
見える化で課題を浮き彫りにしたのが奏功し、業績は計画を前倒しで回復。しかし、いくら課題が見えても社員に共感してもらえなければ変革は進まない。
「共感を得るには、必要な情報を隠さず、役員や社員と共有することが不可欠だ」
近年は分社化やM&A(合併・買収)に力を注ぐ。「OSG本社はソリッド工具メーカーとしてはおそらく世界最大でtoo big。本体の変革には時間も労力もかかる」。まずは小回りのきくグループ会社を良くして全体を変えようと取り組んでいる。
「グループ経営の基本はかっこよく言えば任せる経営、別の言葉で言えば放置プレー。各社に権限を与え、それぞれの考え方を尊重する。ただ、単独では大きな力にはならないから国内外でクロスファンクションに挑戦している」
気さくで話題豊富。会長となってからも自らの足でグループ会社に赴き、対話を重ねベクトルを合わせていく役割を担う。
「組織がより上を目指す強いチームになると、社員のレベルは自然と上がる。人財育成の最良の方策は強いチームの下で働くことである」(編集委員・田中弥生)
【略歴】いしかわ・のりお 78年(昭53)金沢大工卒、同年OSG入社。07年に同社初の生え抜き社長に就任。積極的なM&Aでグループ経営を拡大した。21年会長。19年から21年まで日本機械工具工業会会長。愛知県出身、66歳。