「経営は生きること」。大阪ガス相談役の楽観的な経営哲学
「この世で起きたことはこの世で解決する。楽観主義なのでそう思って最善を尽くす」
2008年4月、体調を崩した前社長の後を継いで社長に就いた際も、この心構えで臨んだ。在任7年間で忘れがたいのは11年の東日本大震災。「情報の混乱もあり何が起こるか分からない状況だった」。しかし「大きな出来事を前に、立ち尽くしてしまうのが一番良くない」と強調する。
新しいことに携わる機会が多く、大阪ガスの海外進出初期にはロンドンオフィスの初代駐在員として赴任。常務時代は大ガス初の大型液化天然ガス(LNG)発電所の建設に携わった。自身の経験からも、社員には挑戦がもたらす価値を力説する。
「前例がないことはビジョンを持って考え、計画しなければならず、人を説得し、予算を確保するなど体力と根気も必要になる。昨日と同じだと人は安心するが、それでは必ず衰退する。新しいことにチャレンジしないとあかん」
「安全など変えてはいけないこともあるが、達成方法は良くしていける。コロナ禍やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)といった社会課題も、従来と同じアプローチではだめだ」と変化を求める。
国内外さまざまな資産の購入を決め、会社資産は5割程度増えた。「30年くらいの期間で見ないと(投資の)評価はできないし、結構、傷もある」とするが、22年3月期業績に貢献する案件も複数生まれている。投資の判断は「臆病なので最悪のシナリオを想定する。そうすると、リスクがあってもやるべきことが見える」という。
社長の時に目指したのは“明日も行きたくなる会社”。
「上司や顧客に叱られても、翌日は会社に行って仲間と話し、何かを見つけようという気分になる職場にしたい。怒ることもあるが、機嫌良くすることを心がけた。扉を閉ざすとバッドニュースが来にくくなる」
経営は「人間に例えれば生きること」と説く。
「生きるのに必要な機能を整え、不要なものは壊して作り替える新陳代謝も必要だ。必要な機能をバランス良く成長につなげるのが経営」
経営者のあり方では「行蔵は我に存す 毀誉は他人の主張 我に与らず我に関せず」という勝海舟の言葉を引く。他人の評価に一喜一憂せず役割を果たし、出処進退は自ら決める。この信念の通り実行してきている。(編集委員・錦織承平)
【略歴】おざき・ひろし 海外事業や製造発電部門などを経て、02年に取締役に就いた。社長在任中は海外エネルギー事業の拡大に大きく踏み込んだ。15年12月から務める大阪商工会議所会頭を3月に退任する。兵庫県出身、71歳。