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材料開発を効率化する「マテリアルズインテグレーション」とは?

デジタル化による材料開発の飛躍的な加速が期待されている。実験を繰り返して開発してきた従来の研究手法を刷新して、計算機上で効率的に材料を開発するためにはどうしたらよいか。この問いに応えるために、2010年代中盤、「マテリアルズインテグレーション」という考え方が日本において提案された。これは、材料で重要となる4大要素、すなわちプロセス、材料の構造、特性、性能を計算機上で結び付けて、プロセスから性能までを一気通貫に予測するというアイデアである。

内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第1期「革新的構造材料」においてコンセプトが提案・実証され、現在、SIP第2期「統合型材料開発システムによるマテリアル革命」において社会実装を目指した研究開発が行われている。

私たちはマテリアルズインテグレーションを具現化するために、材料設計のための専用システム「MInt」(Materials Integration by Network Technology)を開発した。MInt上で、ユーザーはさまざまなモジュールを組み合わせ、多種多様な材料の問題を解くことができる。

例えば、飛行機のエンジンに使用されるニッケル基超合金の熱処理を取り上げてみたい。この熱処理は、耐熱性を決定する大切なプロセスであるが、最適化には時間がかかる。熱処理実験、顕微鏡観察、高温強度試験を行う必要があり、一つの条件を試すだけで半月以上かかり、たくさんの条件を試すことができない。

これに対しMIntでは、これらすべてを計算機上に置き換えて実行することで、半日以内に結果を得ることができる。さまざまな熱処理条件を網羅的に計算して地図を作り、製造現場のニーズや装置のスペックに応じて最適な条件を割り出すことが可能となる。

MIntは、モジュールを追加することで新しい材料課題に対応する「成長するシステム」である。産学でMIntを成長させながら、日本の研究開発力を支えたい。その思いから、20年12月に「マテリアルズインテグレーションコンソーシアム」(MIコンソ)を立ち上げた。現在、企業8社、大学・公的機関18研究室・センターが加入している。会員はMIntシステムを自由に利用して材料開発をすることができる。MIntは産学連携のデジタルプラットフォームとして、産学の共同研究によって生まれた新しいモジュールを取り込んで成長していく。

物質・材料研究機構(NIMS) 統合型材料開発・情報基盤部門 部門長 出村雅彦

1995年東京大学大学院修士課程修了後、科学技術庁金属材料技術研究所(現NIMS)に入所。2003年博士(工学)(東京大学)。内閣府出向、東京大学特任教授を経て、20年より現職。

日刊工業新聞 2022年2月16日

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