材料開発にAIを応用する「MI」、黎明期に旗振り役を務めた京大教授の懸念

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自動化装置を使った並列実験(京大提供)

各階層でデータ駆動 研究のハブ重要

京都大学の田中功教授らは、人工知能(AI)技術で新物質を探索する。材料開発にAIやデータ科学を応用するマテリアルズ・インフォマティクス(MI)という研究手法を開発してきた。物質探索や製造プロセス、素子構造など各階層でデータ駆動の研究が試みられている。階層をつなぐデータ駆動研究のハブが重要になる。

「研究のデファクトスタンダード(事実上の標準)を取りにいく努力をもっとしなければならない。大学は10年かけてでもじっくり技術を育てなければならない」と田中教授は強調する。マテリアルやプロセス、デバイスなど、各階層でデータ駆動の研究開発が広がり、データ駆動型の研究振興は文部科学省の科学技術政策の柱になった。

田中教授はMIの黎明(れいめい)期に旗振り役を務めた研究者の一人だ。研究室では世古敦人准教授が材料数理学のMI適用を進め、林博之助教がロボット協働型の合成実験を進める。計算と実験の両面からMIをけん引してきた。成果の一つがAIを使った新物質探索だ。擬二元系酸化物と呼ばれる物質群で新物質を合成した。世古准教授が材料合成の推薦システムを開発し、林助教がロボット協働実験で実際に合成してみせた。

発見した擬二元系酸化物の新物質La4V2O11の結晶構造(京大提供)

推薦エンジンは電子商取引(EC)などでも使われるアルゴリズムを利用している。低ランク性を仮定したテンソル分解法で化学組成とプロセス条件を整理し、合成できそうな未知物質を上位に提示する。林助教は「物質名やプロセス名など、数値にならないデータでも扱える」と利点を説明する。MIでは焼成温度や配合比率など数値として扱えるデータで仮の関数を作り、ベイズ最適化などの手法で条件を絞り込む例が多かった。

実際に1500件のデータからAI推薦に従い物質を合成して新物質を発見できた。擬二元系酸化物は研究の歴史が長く、既知物質の中でも最も発見数が多い。研究者が長年探しても見つからなかった物質をAIで発見できたことになる。他にも電池の研究者とリチウムイオン伝導酸化物、蛍光の研究者と窒化物を発見している。

複数の分野でマテリアルとプロセス、デバイスでの成功例が積み上がってきた。今後はこれらをつなぐ技術がデータ駆動研究のハブになる。同時に世界でMI人材の争奪戦が起きている。田中教授は「計算物理では国際的な求人の7割がMI関連。欧米は計算物理からMIに舵(かじ)を切った」と指摘する。そして「日本の人材は非常に少ない」。データ駆動の潮流の中、日本は世界のハブになれるか正念場だ。(小寺貴之)

日刊工業新聞2021年12月17日

COMMENT

小寺貴之
編集局科学技術部
記者

産業界ではデータで稼げと言われるようになりました。学術界ではデータで稼げと言われないものの、データでハブになれとは言われます。研究のプロセスを紐解いて研究のハブを取りに行く、デファクトを取りに行く。そんな野心家な研究者がもっと増えないといけません。海外では野心でなくて、下心というか、選択肢を増やす保険のように、当然のように考えられていることかもしれません。

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