新材料で国産航空機エンジン実現へ、DB構築するNIMSの挑戦
航空機エンジンの、特に高温となるタービン部分に使用されている材料は、海外企業により開発されたものが多い。これに対し、物質・材料研究機構(NIMS)は、タービン動翼、静翼、ディスク用材料として、耐環境特性と高温強度に優れた材料を開発してきた。これらの高強度材料の実用化は、燃焼ガス温度の向上による効率改善、冷却空気の削減、部材薄肉化による軽量化を可能とするため、燃料消費量、ひいては二酸化炭素排出量の削減につながる。
一方、新材料を民間の航空エンジンに使用するには、その材料の信頼性を米連邦航空局(FAA)などの認定機関に認証させる必要があるが、信頼性を担保するためのデータ取得に膨大な費用がかかり、これが実用化への大きなハードルとなっている。
この課題を受け、日本ガスタービン学会に参画する企業や研究機関が主体となり、民間エンジン製造に必要な国産新材料の材料特性データベースを国内企業の共用向けに構築する取り組みを提案した。将来の実用化を目指してデータを蓄積し、信頼性を高めることで、国際協力によるエンジンプロジェクトにおいて日本産業界の優位性を向上させ、またオールジャパン体制による純国産エンジン製造につなげて、国際市場での競争力向上を目指すものである。
取り組みとして、まず2020年度より科学技術振興機構(JST)による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「統合型材料開発システムによるマテリアル革命」にて、材料データベース作成のためのフレームワークを構築した。
さらに21年度からは、より大規模な予算での材料試験により、部材大量生産時の特性のバラつきデータの蓄積、ロバスト性の確認、模擬形状部品製造による製造性確認を行うため、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「航空機エンジン向け材料開発・評価システム基盤整備事業」研究開発項目(3)「航空機エンジン用評価システム基盤整備」を開始した。参画機関はNIMSのほか、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、IHI、川崎重工業、三菱重工航空エンジン、本田技術研究所、三菱重工業となっている。今後は発電分野へのデータ展開や、国内サプライチェーンの構築などを視野に、大学や他企業の参画も可能と考えている。5年間を予定している本事業に国内の研究機関・企業が一丸となって取り組むことで、国産材料の実用化に向けて大きく前進するものと期待している。(水曜日に掲載)
物質・材料研究機構(NIMS)構造材料研究拠点 設計・創造分野 超耐熱材料グループ グループリーダー 川岸京子
98年東京工業大学大学院修了、博士(工学)。同年、金属材料研究所(現NIMS)入所。18年より現職。19年より早稲田大学連係大学院教授併任。「航空機エンジン用評価システム基盤整備」プロジェクト研究開発責任者。